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「…人体蘇生には、逆が存在する」
必死に涙を堪えようとしているゾルフの代わりに、バランは知識として知っている情報を話し始めることにした。
「昔に何かの文献で読んだことがある程度だけど、一度死んだ人間の輪廻を無理矢理0に戻すのが人体蘇生だ。その際にとんでもない魔力を使うから、元の力を取り戻すことはできない。錬金術師が未だ失敗し続けている人体錬成とはまた違う。その反対っていうのは、生きている人間の輪廻を終わらせることで、その者の力を得ることができる―――人体廻生。人体蘇生と同じく、対価無しでは成功しない。更に廻生で死んだ人間は二度と輪廻に戻れない。対価の内容と、廻生方法の詳細は未だ明瞭ではないらしい、けど…」
その内容まで言っていいものか悩んでいると、ゾルフはもういいと言って手を挙げた。
「シェバート卿のおっしゃる通り、私の息子は人体廻生を試みた。誰に聞いたのかは分からないが、錬金術師が行うような物理的な方法だ。人体廻生の魔法陣を地下牢の中心に描き、標的を中心に置く。そしてそれを喰らうことでその者の力を得、息子は記憶を混沌の底に落とした」
「…母親を食ったのか」
ラオルは歯を食いしばる。自分なら二度死んでも母を手に掛けることはしない。自分の苦しみが勝るとしても、母の笑顔の方がずっと大切なのだ。
「結果息子は、その場にいた私が母親を殺したのだと思い込み、残骸として放置されていた骨を集めていたところ、背後から心臓を貫いてきたというわけだ」
「ですが、アルゾフ陛下は私やゼスに、母君が行方不明であると仰っていました。それ以外に詭弁は見受けられましたが、その点に関しては嘘を述べているようにはどうも思えなかったのです」
「記憶を失ったわけではなく、落としてしまったことが要因です。混沌とはまるで底なし沼で、力の行使を誤った者が落とされる永遠の牢獄のようなもの。死ぬことも許されない本物の地獄を意味します。息子はそれなりに力を扱える両親と自分を比べ、いつしか心が壊れてしまった。それに気付けなかった私のせいでエイランも亡くなり、息子も混沌に囚われた。アルゾフの心臓が混沌へ引きずり込まれるのも時間の問題でしょう」
お前は悪くない、とゼスは言わなかった。弟子の人生に口を出すほど、師は優れた者と言えない。あくまでも生きる道は自らが決めるべきだと、ゼスは弟子達に再三言い続けている。
(初めはこやつも好奇心だけで動いていたが…知らん内に父親の顔をしておる)
ゼスにとってのゾルフは息子も同然で、アルゾフを放っておくこともできなかった。確かにゾルフであれば気づけただろうが、自覚するほど息子を愛しすぎていたのであれば話は別だ。
冷静に見えるはずのものが、幸福に阻まれてしまったのだろう。それが地獄を呼び寄せるなど、とんだ皮肉だ。
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