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   帰宅すると、車庫に車があった。  お母さんがもう帰ってきている。  そういえばきょうは木曜日だ。一週間のうち、木曜だけ早く帰ることになっている。会社の決まりで。  いいことだけど、会社というのは窮屈そうだ。私はまだ働くことについて考えたくない。  靴を脱いで家の中に入る。  洗面所で手を洗っていると、お母さんのほうから声をかけてきた。  昨日と似たパターン。その場で話をする。 「ハンカチ、見つかったよ。母さん、お茶こぼしたとか言ってたけど、その後何か良いこととかあった?」 「こぼして良いこと? ないけど、何でそんなこと訊くの? あるわけないじゃない」 「悪いことがあった後は良いことがあるとかいうからさ、母さんのほうも何かあったらいいなと思って」 「あったの?」 「まあね。拾った店のお姉さんが良い人だった」 「そう」  良かったじゃない、と言う。 「うん。母さんは? 片付けるの手伝ってくれた人ととかいないの?」 「みんな忙しいからね」  大丈夫? と声をかけてきた人はいても、手伝いまでは断ったらしい。    声をかけられたのなら、それで良いと思う。 「誰が声かけてきたの?」 「誰って…そこまで訊く?」 「聞いても分かんないのは分かってるけど、一応」 「…米本さん」  母さんは渋々と答えた。 「なら、その人大事にしないとね」 「急に何の話?」 「いや、何となく」  勢いで言って、少しだけ後悔した。説明なんてできない。 「よく分からない子ね。浮かれてるし」  母さんは、浮かれるのは悪くないけど、と軽く愚痴を言った。 「良い人だったのって、本当にお姉さん?」  急に話を切り替えてきた。 「え?」  勘違いをしているようだった。 「どうなの?」 「…花屋のお姉さんだけど」 「本当に?」 「本当に。男の人じゃないよ」 「なら良いけど」  言って、洗面所から離れた。  心配の方向が間違っている。けど、反論までは出来ない。  良いことがあれば神経質も少しは薄れるのに、と思う。  探せばどこかにあるはずだけど、あまり言ったら逆効果になる。  出しっぱなしになっていた水を止めて、どうしたものかと考える。    けど、何も出てこなかった。  もう良い。何か問題が出てきたら、あのお姉さんにでもそれとなく訊いてみよう。  そう片付けて二階に上がる。  バッグが重い。部屋に入ってすぐ、床に置いた。  
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