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 どことなく不思議な人だった。  ハンカチは持って帰って洗うつもりだったけど、何故か綺麗だった。湿ってもいない。  持ち主が来るかどうか分からないなら、わざわざ洗う必要はない。  綺麗になっていて困るということはないけど、ちょっと気になった。    明日、帰りに寄って訊いてみようかと思う。  すっきりしないし、話してみたい。  いや、まだ店を開けているんだから、別に明日でなくても良い。引き返して、店の中に声をかけた。   「はい。ってさっきの」  気付いたお姉さんは少し驚いていた。 「はい。ちょっと訊きたいことがあって…。このハンカチ洗ったんですか?」 「そうだけど…あ、もしかして嫌だった?」 「いえ、そんなこと…何でここまでするのかと思って」  疑問を投げる。 「どうせなら綺麗な状態で返したいと思って」 「来なかったら?」 「処分」  はっきりと言った。 「…そうですか。とにかくありがとうございました」  はっきりし過ぎていて、何故か気が引けてきた。でも嫌になったわけじゃない。自分でもよく分からない感覚だった。  帰る。    と、止められた。 「それ、気に入ってるんだよね」 「…うん」 「なら、大切にしてね」 「はい」  言っている中身は説教のようなものだったけど、そこまできついものには聞こえなかった。  私の考えなんだけど、と話を続ける。 「好きなものとか大事にしたいものを自分の周りに置けば置くほど、丁寧に生活できるから」  穏やかに、だけど真面目に言う。  分かるようで分からない。答えに困っていると、お姉さんは苦笑した。 「ごめんなさい。変なこと言ったね」 「いや、変じゃないけど…いまいちよく分からなくて」 「好きなものなら大切に扱いたいでしょう」 「…確かに」  そう言われたら、分かった。 「分かりました。もう帰りますね」  また、と言って、店を出た。
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