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第二十話
突然、望月に酷似した声が冷えた液体と共に浴びせられた。彼女が妖か何かでない限り、ありえない方向に音源があった。髪から滴る烏龍茶がジーンズに濃い染みを作る。目を覆う前髪を左右に掻き分けて、睫毛に張る水滴を払うと机の左脇には見知った顔が並んでいた。
「鈴、なんでここに?それと、望月?望月が二人?どういうこと?」
なにがなんだか分からなかった。帰らせたはずの鈴がこちらにいるのも驚きだったが、なにより、俺の向かいにいる望月が、彼の隣にも立っていた。並行宇宙にでも迷い込んだ気分で、空恐ろしい。
「陽向、なんで。」
目の前の望月が、彼女の腕を掴むもう一方の登場に動揺して、空回った声をあげる。鈴はこちらに駆け寄って、取り出したハンカチで俺の髪を抑えるように拭いた。
「なんでって、こっちがなんで、だよ。何してるの?」
「だって。」
「ちょっと待って、全然状況が掴めてない。なんで望月が二人もいるの?」
寸分違わない彼女らが口喧嘩を始める前に、俺はなんとか制止した。後から来た彼女はあっけらかんと笑った。
「ああ、やっぱり、気付いてなかったんだ。私達、双子なの。私がお姉さんで、こっちが妹。結構有名だと思ってたんだけどな。薮田は他人に興味ないって学が言ってたけど、本当なんだね。」
確かに、一樹と孝太が、そんな話をしていたような。これといい、鈴のことといい、学は俺のことをよく見ている。彼に感心する一方で、ひとつ合点がいくことがあった。
「もしかして、妹の方の」
「陽和。苗字で呼んでたら区別つかないでしょ。私のことも、陽向でいいよ。」
「わかった、ええと。陽和って雑貨店でアルバイトしてる?」
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