第一話

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第一話

暦上では秋だが、街はすっかり冬に模様替えが済んでいて、並木通りに葉の付いた木は、ただのひとつもない。寒さは頬がつっぱって痛むほどだった。俺の頭ひとつ小さい横顔は、可視化された息を漏らす。俺もその真似をした。それと一緒に取り留めもない話題を、小学生がやる帰り道の石の蹴り合いのように転がしていく。彼、山崎(やまざき)(すず)とは所謂(いわゆる)幼馴染で、幼稚園から高校二年の今まで、組分けさえ揃いでやってきた。互いの家は数分の距離で、この十数年間、帰り道はそういう手頃な応酬と決まっていた。しかし今日は、石は側溝(そっこう)に落ちてしまった。こんなことは初めてだった。靴底が塗装された道路を()る規則的な音が、かえって沈黙を引き立てる。気不味い。教師に媚びて模範的に着た制服のポケットに隠した手で、微かに伝わった胴の熱をすくう。手をおもむろに引き出して、髪を整える振りをした。自分達を内包する硝子玉(がらすだま)のような静けさに、少しでもひびをいれたくて、わざとらしい咳払いをひとつ。目をどこに置いても外れている気になって、泳ぐ目が一瞬捉えた鈴の横顔は、思い詰めた色をしていて、きつく結んだ口が印象的だった。それによって、空気の重みをより感じた。足も次いで重くなる。自然と、鈴の一歩後ろを歩いた。居心地の悪さが軽くなって、視線は彼の首元の白に固まった。校則違反のパーカーはさぞかし暖かろう。立った厚手のフードと首筋の隙に、冷え症の俺の手を滑り込ませたら、どんな顔が返ってくるだろうか。似非(えせ)の方言でやめろや、とわざとらしく怒って小突いて、こちらを向いてくれるだろうか。想像だけがふくらんで、勇気は湧いてこず、つぎは形の良い鈴の耳を目でなぞった。ふと、鈴が歩くのに合わせて揺れる黒染めの髪と、パーカーのフードが空気を含む。そして烈風が、音を連れて抜けた。 それをとっかかりにと、俺は口を開く。一刻も早く、この居心地の悪さをどうにかしたかった。 なんて言おうか。最近ずっと曇りだね?駄目だ、天気の話は広がらない。風強いね?ううん、これも一言返されて終わりそうだ。
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