第十九話

5/5
86人が本棚に入れています
本棚に追加
/156ページ
「それは。」 彼女の発言はどれも刺激的だった。隙だらけで、俺の考えとまるで外れていて、逐一否定をそそられた。しかしそれは同時に、俺の異常性を証明するものに思えた。そうやって、世界そのものに排斥された気になった。どうして分かってくれないのか!何度だって恥を捨て、駄々を捏ね、そう言って泣き出したくなった。どうしても答える半ばで声が上ずった。 望月は下に見ていた俺に言い負かされて、苛立った気分を抑えられないでいた。緩やかに巻かれた髪を乱暴に手で()いた。 「でも、女の子と付き合った方がいいじゃん。男同士なんて結婚もできないし、子供もできないじゃん。」 「結婚も子供もできたら素敵だよ。きっとね。でもそれは俺が彼のことを好きじゃない理由にならない。理屈でどうにかなるもんじゃないんだよ。お前だって知ってるだろ。恋情なんて、一緒なんだよ。異性に向けるか、同性に向けるかっていう違いだけで。残念だけど、俺の」 次の言葉に口の形が成った時、思わず躊躇した。その文字は、他人に手出しさせないために今まで俺が明言を避け続けたものだった。しかし孝太に刷り込まれた言葉が俺をけしかけた。まだ恐ろしさと完全に手を切ることはできていないが、俺は自分の気持ちを認めてあげたいと思った。初めて抱いた感情だった。ああ、しかし、自分自身が許さなければ、一体、誰が俺を許してくれるというのだろう! 「鈴を好きな気持ちの存在だけは、絶対、否定させない。」 言い切って、また涙が滲んだ。 望月は顔を真っ赤にし唇を震わせて、手元のグラスを引っ掴んだ。これから俺がどうなるか、咄嗟に理解できた。俺は(おもて)を下にやって、目を固く瞑った。 「ちょっと!やめて、陽和!」
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!