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映画のような一場面だった。これが本当に映画だったのなら、主題歌の最もキャッチーな旋律が宛てがわれるのだろう。そしてこの一瞬を、何台もの撮影機で様々な角度から切り取るのだ。勿論、観衆の興奮を煽る、くどいほどのスローモーション効果は欠かせない。それぐらいしないと割に合わない、ひとつの芸術作品のように完成した情景だった。昼前の鋭い陽射しが、電気の点いていない病室を広く照らしていた。シーツ、壁、床、どれかの白が光を返していたのだろう。背景には劣るが、鈴は明るさを持っていた。鈴はこちらへ顔を向け切っていて、表情まで鮮明に見えた。彫りが特別深い訳では無いが、空からの過激な照明が凹凸を強く見せるから、彼の構成要素がいつにも増して存在を主張する。細く直線的に通った高い鼻梁。瞼に平行に引かれた二重の線は、色濃い影を落とし、元より狭い眉との間を埋める。瞳は漏れた後光に星空を湛えられ輝いていた。目を縁どる細い睫毛は所々金色をして、毛流れがよく分かった。部屋に吹き込んだ空っ風で毛先は散り散りになり、普段は正面で分けられる前髪が異なる重なりをして額と眉を裸にする。整えられた眉は何の感情も表さず緩んでいた。大きな目も、薄い唇も然りだった。何の仮面もつけていない、力の抜けた無垢な顔だった。逆光で神々しいのも相まって、一層儚げで、手を伸ばせば瓦解して跡形もなく消え去ってしまいそうだった。この世のものではないように綺麗だった。浅葱をした入院着から覗く、陶器のような肌の、首筋、指先まで洗練は及んだ。衣服の皺さえ美しく思えた。
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