第四話

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間に合わせの弁護を打ち切って、鈴は照れくさそうに口をつぐんだ。 なんだ、なにか彼を(はずかし)めるものでもあったのか? ふと気付いた。彼の遠景にある硝子に薄ら映る俺は、慈愛を(たた)えた顔をしていた。お前が愛おしいのだと、言って聞かせる顔をしていた。 なるほど。しかし、おかしいな。俺は外と内の齟齬(そご)に笑った。鈴はそれにつられて、反射的に逸らしていた目を俺に向ける。視線が絡まる。彼の目が発作的に揺れた。彼の握りこぶしの締め付けが酷くなる。 ああ、いけない。 「ううん、いいんだよ。まだ鈴は分かんないことだらけでしょ。自分の名前も分かんないのに、ましてや自分の性事情なんて、ねえ?」 俺は少し馬鹿にする調子で言った。これで、漏れ出た笑いは鈴への揶揄からくるものだと、彼は錯覚する。 「その言い方、やだ。」 成功だった。鈴は俺が気を悪くしていないことが知れると積極的になり、不貞腐(ふてくさ)れて言った。 「はは、冗談だよ。こんな素直な鈴、珍しくってつい。」 「元の俺はそんな天邪鬼だったの?」 「そんなところ。それも可愛かったけどね。」 「うわ、なんか惚気(のろけ)られた気分。」 「鈴自身の話だけどね。」 言葉を交わすごとに、興奮が慢性していく。自分の適応が上手いことに、ある種の感心を覚えた。いまでは、低次の楽しさだけが胸に残っている。俺の一言で、階段を転げる林檎みたいに表情を変える鈴が可愛い。彼を掌握した気分になって、嗜虐心(しぎゃくしん)が顔を出す。
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