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素っ気ない返事が一息も置かず帰ってくる。もう後は無かった。背水の陣といったところだった。
「――同じクラスの望月だよ。」
しかしまた、逃げた。もう顔を見られない。鈴と俺との視線の先は交わらず平行線を辿る。苦しかった。とんでもなく大きな嘘をついてしまった気になった。心臓の裏を刺すような罪悪感で痛かった。
鈴は自分に、応援の言葉をかけるのだろうか。それとも揶揄うのだろうか。はたまたライバルだなと残念そうにするのだろうか。想像しうる全てが最悪の結末だった。何を言われても顔が歪むのを隠し通せる気がしない。まだ耐えられる寒さだからと、今朝、マフラーを玄関先に置いてきた自分を恨んだ。
虚言を暴かれないかが不安で、咄嗟に出てきた隣の席の女子の魅力をつらつらと並べる。口が勝手に、いつもより滑らかに動いている感じがした。
「へえ、本当に好きなんだな。」
笑顔を褒め始めたあたりで、鈴はやっと反応を示した。思ったより淡白で、拍子抜けした。声色だけでは感情が掴めなくて、目だけで盗み見ようとする。しかし、一歩先にいる彼の表情は読めなかった。
「そんな、めちゃくちゃってほどではないけどね。」
悪足掻きなのは分かっているが、素直に認めることは出来なかった。
帰路は終盤で、橙色をした道路反射鏡がある十字路が見えてくる。直進すれば自分の家、左折で鈴の家に着く。大抵はこの十字路で、日が暮れるまで駄弁り、鈴を家まで送り届ける。さほど距離は無いが、鈴の彼氏にでもなった気分になれるから、その遠回りが好きだった。
「ねえ、そっちはどうなの?鈴。」
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