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第二話
教卓の上の古びたスピーカーが、しゃがれた声で予鈴を歌う。思い思いに朝礼が始まるまでの時間を過ごしていた生徒達は、真面目な者を筆頭に、水面に波紋が広がるように席に着く。俺は仲の良い四人と、教室の後ろのロッカーあるいは机に腰掛け、最後まで駄弁っていた。引き戸の滑車が音を立て、担任である須田が挨拶をしながら教室に入って来た。前から二列目までの生徒が、疎らに湯呑みの底に残る茶葉の如き挨拶を返す。
「鈴、遅刻かな。」
「最近減ってきてたのにな。やっぱ癖って治んないもんだな。」
森川学と日野一樹が、机から身を乗り出して、まだ空の鈴の席を案じる。彼らは隣同士の机を他よりいくらか閉じさせて、授業中ものべつ幕無しに私語をするものだから、毎時限のように咎められている。学のひとつ前の席に座る俺は、四本足の椅子の前足を浮かせ、背もたれに体重を掛ける。左手は自分の机の縁に引っ掛け、右肘は学の机に突いてバランスをとった。
「普段なら遅刻の時は連絡くれるんだけど。なんか怖いね。」
俺は顔を前に残して言った。
「そんな心配しなくても大丈夫でしょ。」
「本当に雷って過保護だよなあ。」
学と一樹は口々に俺の心配性を取り沙汰して、揺れる俺の椅子の背を押した。均衡を崩された椅子は大きく一回、地団駄を踏む。黒板の欠席者欄に、チョークをあてがっていた白髪頭は振り返り、騒がしくしている三人を睨みつけた。俺は煙草の煙みたいな謝罪を吐き、学の手の甲をつねった。
「痛い!ごめんって、そんな強くつねんなくてもいいじゃんか。」
「一応俺、先生の前では真面目にしてるんだよ。さっきだって注意されないようにちゃんと前向いてたし。」
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