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「でも結局は俺らと喋ってんだから一緒だろ。」
でも確かに六人でやらかした時、お前だけは別の怒られ方するよな、と一樹は付け加えた。つい最近、屋上に侵入したのが見つかった時に、「薮田、嫌だったらちゃんと嫌だって言えよ」の一言で俺が放免されたことを思い返しているのだろう。残り五人は、叱責を小一時間は浴びせられていた。自分の意思であることを生活指導の担当者に伝えたが、彼は正義感を含ませて、俺は味方だからな、と健気に言うだけだった。そして彼はドアを開けた。教室に戻れということらしかった。
「鈴、休みだって。名前書かれてる。」
学が一樹に向かって言った。
「馬鹿は風邪ひかないって言うし、事故にでもあったのかもな。」
「はは、縁起でもないね。でも鈴なら車なんて避けれそうだよね。」
「確かにな。この間見たアクション映画のヒーローみたいに、車の上でバク転とか出来そうだよな。」
二人が笑いを零す。今度は睨まれなかった。須田は教卓の前で、今日の連絡事項を確認していた。俺は二人の会話には混じらず、机の下で鈴に調子はどうかと連絡を入れた。ついでに、昨日聞きそびれた彼の想い人についても。
「ええ、号令。」
学級委員の号令と、まるで合っていない起立に一礼のあと、遂には号令も無く、生徒達は着席していく。俺が机に入れた椅子を引く間に、一樹と学が椅子の位置を整える音を立てる。一礼の流れで席につくのは、須田に何度注意されても止めないようだ。
ああだの、ええだの、逐一母音を頭に付けて、須田は連絡事項の一覧に、済の文字を書いていく。今日はいつにも増して粗雑なものだった。何かに急かされているような、諸々の連絡が何らかの布石であるような。生徒達も次第にそれを感じ取って、一時限目にある小テストの勉強は机の端に退けられていった。
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