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「雷本当にしんどそうなんだよ。まず保健室なんて、今は言ってられないよ。」
「駄目だ、規則は規則だ。」
一樹は溜息を吐き、学と俺にしか聞こえないように息に乗せた愚痴を零す。
「お堅いよなあ須田。」
「やっぱりいいよ、学。須田先生許してくれなさそうだし。大人しく放課後、病院に行くよ。」
俺は薄く笑った。学が俺の肩を叩く。間に合わせの糊で貼り付けた笑顔は、乾いた音を立てて剥がれた。
「ねえ。教師に歯向かうのとかさ、僕らの得意分野でしょ。」
学は隣に目配せをしたあと、席を立ち俺の横を過ぎて、そのまま教卓に向かった。彼が数人の女子生徒と須田を交えて談笑する声が微かに聞こえて来る。鈴と特別交流の深い彼女達は、須田に彼の容態の詳細を聞いていたらしい。須田はもうこちらを気にかけてはいないようだった。
「雷はいつも俺らと一緒に馬鹿やってくれるけど、お前からやろうって言い出したことはないよな。デビューしちゃおうぜ。」
一樹も俺の肩を軽く小突いて、ほら早く、と急かした。ぐらついた情緒のせいで簡単に目頭が熱くなってしまって、俺は誤魔化すように頷いた。机の上の単語帳と筆箱に手を伸ばし、まとめて鞄に落とす。
その時、教室の前方が周りの音を吸い込むように騒がしくなった。自然と他は静まって、やけにはっきりと声が聞こえた。
「嘘でしょ。鈴まだ目、覚めてないの?」
「鈴、生きてるって先生言ったじゃん!死んではないってだけなの?もう一緒に話せないの?」
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