03

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門野君が来ると言っていたのは17時だった。今はもう18時を回っている。そろそろ終わっただろうか。私は親に学校に忘れ物をした、と言って家を抜け出すと、懐中電灯を持って廃屋までの道を歩いた。もう夕日も暮れて、夜の色へとと変わりつつある。途中門野君とすれ違わないか心配だったが、人の気配なんて全くなかった。虫の声だけが響く田んぼ道を、私はとぼとぼと歩いた。 廃屋についても、人の気配は無い。 ナミちゃんは門野君とちゃんと会ったのだろうか。その上で大人しく待っているのだろうか。それとも、家に逃げ帰って親に泣きついているのだろうか。 私は嫌な汗を流しながら、廃屋に向けて懐中電灯を照らした。 結論だけ言えば、ナミちゃんはそこに居た。 畳の上で寝ている様子のナミちゃんに、私は駆け寄った。門野君はもういない様子だったし、ナミちゃんの衣服が乱れていたから何があったかは容易に分かった。頭の弱い門野君だから、誰が相手かなんて考えずにヤッたのだと思う。 普通の相手だったら、私がいるはずなのに小学生が代わりにいたら躊躇していたはずだ。 「ナミちゃん…?」 微塵も動かないナミちゃんに、私は恐る恐る近寄った。 足元が照らされると、私は思わず顔を背けた。足首まで下ろされた幼い下着が痛々しい。引っかかれたような傷もあちこちにあったし、噛み跡みたいなのもあった。“こうなるのは自分だったんだ”私は腰が抜けそうになるのを必死で奮い立たせると、懐中電灯の向きを変える。ナミちゃんの上半身は…この子の親が見たら発狂したと思う。ビリビリに裂かれたシャツから覗く子どもらしいぺたんこの胸が余計に物悲しい。 「ナミちゃん…」 彼女の顔を照らすと、目をカッと開いたまま涙を流していた。髪に触れようと伸ばした腕を私は慌てて引っ込めた。ナミちゃんは息をしてなかった。出来るはずなかった。口いっぱいに白く濁った液を含んで口端から溢している彼女は、窒息しているようだった。 「…嘘…やだ、嘘でしょ…」 私は途端に自分がした事が恐ろしくなって。その場から逃げ出した。 あの場で救急車を呼んでも、多分助からなかったと思う。いや、そう思いたいだけかもしれないけれど。 その夜には、帰らないナミちゃんを心配した両親が駐在に駆け込んで捜索され…夜中に事件を伝える鐘が町中に鳴り響いた。私は布団を被って震えながらその音を聞いていた。
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