カスミソウ

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「まぁいっか」  結衣子が短く息をついた。 「ん? 何がいいの?」 「ううん。この前和仁がね」  その名前に、違った意味で笑顔になる。 「やっぱり二人はお似合いだねって、言ってたから」 「え、二人って、私と青野くん?」 「そう。和仁だけじゃなくて、私もそう思うよ。りおには青野くんみたいな人が合うんだろうね。りおのわけ分かんない言動にもさ、落ち着いて対応してくれる人なんて、なかなかいないよ」 「て言うか、わけ分かんない言動って、結衣ちゃんそれひどくない?」 「青野くんてさ、私から見ても本当に完璧だと思うよ」 「聞いてないし……」 「それじゃあ、正直に言ってもいい?」  私のことは無視したまま、自分の話を続ける結衣子に手振りだけで「どうぞ」と言った。 「私はね、青野くんと寄りを戻したらいいのにって思ってるよ」 「え、ええ!?」 「何?」  お互いに顔を見合せる。 「えっと……」  結衣子の「正直」に、、驚いた。  彼女もまた、私と同じくらい驚いている。 「私、今まで結構そういう雰囲気出してたんだけど……」  結衣子が言った。 「ごめん、気付かなかった」 「さすがだね……」 「それ、絶対誉めてないよね?」  そう言うと、大きなため息をついた。 「まぁ、とりあえずさ、今言ったことが私の本音だから。私は本当に青野くんとりおはお似合いだと思ってるから」 「──うん、えっと、うん」  ほとんど同時にお茶を一口飲む。  結衣子の本音には、全く気付かなかった。ただ、そう言われて嫌な気はしなかった。だけど、私には突然すぎて頭が混乱する。 「ねぇ、結衣ちゃん。いつからそう思ってたの?」 「いつって。最初からずっと」  そのを知りたかったけれど、もう一度聞くのはなんとなく気が引けたのでやめた。 「だからね、りおから翔太の話聞いた時、正直ありえないって思った。もちろん気持ちは分かるよ、だけど本音はね、青野くんと別れるのは反対だったんだ。まぁ、今さらだけどね」 「ううん。話してくれてありがとう」 「それじゃあさ、過去の話は置いといて、今の青野くんのことはどうなの? りおにはどう見えてるの?」 「今の青野くん……」  とりあえず箸を置き、目だけをぐるりと一周させながらこの前会った時のことを思い出す。 「相変わらず優しいし、一緒にいて落ち着くし、」  そこまで話してから、「あっ」と声を上げた。 「そういえば、青野くんから食事に誘ってくれたって聞いて、驚いた。私、もっと嫌われてると思ってたから。だけど青野くんは私のこと怒ってないって言ってくれて、それどころか自分のせいみたいなこと言い出すから泣きそうになって。我慢したんだけど、私のこともっと大切にすればよかったって言われた途端、我慢できなくて……」  青野くんの顔が何度も頭を過る。 「優しくて、本当に優しくて。私なんかがそこまで優しくしてもらうのは間違ってるんじゃないかと思うくらいで。本当、青野くんが仏様に見えたもん」  思い出し、手を合わせる。 「だから、青野くんには足を向けて寝れないって思った」  言ってから、頷き納得する。 「なんだろう。私の聞き方が間違ってたのかな。確かに私の質問に対してのりおの答えは合ってるんだけどさ、でも、そうじゃないんだよね……」  テーブルの上を人差し指でトントンと叩きながら言っている。 「合ってるのにそうじゃないって、難しいこと言うね」  残りのロールキャベツを一口では大きいと分かっていながらも、口の中に押し込めた。 口を閉じたままで「美味しい」と言ってみるけれど、ほとんど言葉にはなっていない。 「私の言い方って回りくどいのかな……」  なおも独り言のように結衣子が呟いた。  口を動かしながら首を傾げる。 「青野くんはさ、りおのことまだ好きだと思うよ」  ロールキャベツが喉を鳴らして胃袋へ落ちていく。 「──へ?」  自分のではないような声が出た。 「青野くんは、りおのことまだ好きだと思うよ」  私がその言葉の意味を理解できていないとでも思ったのか、同じことをもう一度言った。それも、一文字一文字をはっきりとだ。 「この前会った時思わなかった? もしかして、とかさ」 「……思わなかった。だって、緊張してたし、そんな余裕なんてなかったもん」 「部屋で二人きりでいた時も?」 「うん……」 「別にりおを責めてるわけじゃないからそんな顔しないでよ。でもさ、あんなに分かりやすい人もいないと思うんだよね。あの日だってさ、私と和仁もいたのにさ、りおのことばっか見てたし、あれで気付くなって言う方が無理でしょ。それに、青野くんからまた会いたいって言ってきた時点で、間違いないと思うんだけどな」 「……そう、なの?」 「もちろん本人に聞いたわけじゃないからはっきりとは分かんないけどさ、別れた相手にまた会いたいなんて、未練があるからそう思うんじゃない?」  「確かに」、そう言おうとして口の中で消えた。
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