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昔、花びらを一枚づつちぎり、「好き、嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い」と繰り返し言いながらドキドキしていたことを思い出した。最後の一枚が「好き」になった時は、単純に嬉しかった。今の私に残された最後の一枚は、もしかすると「嫌い」なのかもしれない。
自分でも目に見えて分かるほど気持ちが落ちていく。それをどうにか引っ張り上げ、マイナスにならないように両足で踏ん張る。
「大丈夫じゃないなら言いなさい」、伊勢崎さんは相変わらず私の変化に気付くのが早い。何も聞かずにそう言ってくれた彼女には、ただただ感謝しかなかった。
「何考えてんだろうね、村本慶吾」
わざわざフルネームで呼ぶ時の結衣子は、機嫌が悪い、もしくは、ものすごく機嫌が悪いかのどちらかだ。
返す言葉も見つからず、適当に相づちを打つ。
「マジでふざけてんの? 村本慶吾!」
言うなり音を立ててジョッキをテーブルに置いた。
花火大会の日のことを結衣子に話すと、村本さんが自分の代わりに青野くんを来させたことと、そのあとのそっけないメッセージが、彼女の反感を買うには十分すぎたようだ。
「しかもそれっきり連絡もないってどういうこと!? て言うかさ、りおもりおだからね!」
矛先が、突然自分に代わり驚いて顔を上げた。
「そんなさ、落ち込んでるみたいな顔しないでよ! 彼女いるの分かってて村本さんのこと誘ったんでしょ? 言い方悪いけどさ、そもそもがふられてるんだから、これ以上村本さんに期待するのやめない?いいきっかけかもよ」
まさに結衣子の言う通りで、自分も同じことを考えていた。だけど、私の中の淡い期待は、ずっとそこにある。可能性が、正真正銘のゼロだと分かればいいけれど、村本さんの優しさが、ゼロにはしてくれない。だから、可能性に似たそのほんの少しの何かに本気になってしまう。
「でも……」
私の言いたいことを察してか、結衣子が眉をひそめた。
「好きなんだもん」
そう言ったと同時に、目の前で大きなため息をついた。
「そう言うとは思ったけどね」
「だって……」
「じゃあさ、せめてはっきりさせておいたら? 確かにさ、好きな人と会いたいっていう気持ちは分かるよ。だけど可能性がないって分かっててのそれはいくらなんでも辛すぎるじゃん。だから村本さんにさ、本当に全く可能性ないかどうか聞いてみたら?彼女との関係がどんな感じなのかは知らないけど、こっちは本当の本当に本気なんだって、もっと真剣に伝えたら中途半端にはしないでしょ」
「結衣ちゃん……」
下唇をきゅっと噛む。
結衣子の厳しくも頼りになる言葉に、泣きそうだった。
「それに、りおと村本さん、言ってみればただの知り合い程度じゃん。まぁ、告白こそしたけど、それは今は抜きにして、村本さんもそういう感じならそこまで深く考えなくていいんじゃない? だから、いつも通りに連絡すればいいんだって。元気? みたいにさ」
「……う、ん」
私の返事が気に入らなかったのか、鼻から勢いよく息を吐いた。
「貸して」
言いながら、テーブルの上に置いていた私のスマホをさっと手に取った。
「結衣ちゃん?」
「村本慶吾に連絡するの!」
「えっ! 結衣ちゃん!? だめだめだめだめ!」
スマホを取り戻そうと両手を伸ばすけれど、右へ左へとよけられる。その間も、スマホの上で結衣子の指は動いていた。そして、その動きがぴたりと止まったかと思うと、途端に満足げな笑みを見せた。
恐る恐るスマホの画面に目をやると、冗談ではないことがすぐに分かった。
「お疲れ様です。相変わらずお仕事忙しいですか?この前の埋め合わせは美味しいお肉で許してあげます。時間ができたら連絡ください」
どんなことを送ったのかとヒヤヒヤしていたけれど、意外にもまとも、と言うか、ものすこぐいい感じにすら思えるそれに、感心してしまった。
「結衣ちゃんて、やっぱりすごいね」
そう言うと、両方の眉を上げて見せた。
「なんて返ってくるんだろ」
スマホを見つめながら、呟くように言った。
「あとは村本さんの返事次第じゃない? こっちがどれだけ騒いでたって向こうには彼女がいるわけだからさ。そういう人をずっと好きでいるなんて、辛いだけでしょ?」
「そうだよね」
自分に言い聞かせるように頷きながら答えた。
「て言うかさ、結局青野くんと行ったわけじゃん、花火大会。二人で花火見て帰ってきただけ?」
「うん」
「え、何もなかったの?」
「何もって、あるわけないじゃん。村本さんのことで頭いっぱいで、花火なんて全然楽しめなかったし」
花火大会の日を思い出しながら話していると、大きなため息が出た。
「それに、帰り道で青野くんに抱きしめられて──」
「何もなかったわけじゃないじゃん!」
すかさず結衣子が言った。
「だからってそれだけだよ。それで、その時にね、浴衣着ておしゃれしてきたのは村本さんのためって聞かれて、私、うまく答えられなかった……」
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