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くしゃくしゃと笑うその医師に一気に好感をもつ。最初に入ってきた、綺麗な歳の取り方をしている看護師の女性がほっとしたように笑うのが見えた。なんだか暖かい。
手を借りてそっと半身を起こす。窓の外に桜が咲き渡っていた。まるで神様の揺籃のように、淡い光を浴びてゆらゆら揺れている。
「金沢さん、気分が悪い…吐き気があるとか、どこか痛いとか…ある、かな?」
男性医師の瞳に映る自分を見つめる。少し視線をずらすと、胸元に名前と顔写真の入ったネームタグが見えた。
「いえ…ない、で、す。失礼…ですけど、先生のお名前…伺ってもよろしい…でしょうか」
「ああ!これは失礼!田川です!」
溌剌とした受け答えに、後ろの看護師がまた笑う。
「金沢さんの担当看護師をしています、浅見です。よろしくね」
同様によろしくお願いします、と頭を下げる。左手は点滴が繋がれていて、その向こうに大好きな赤いバラが活けられた花瓶が見えた。
「あの…浅見さん…、あのバラは…?」
「え?ああこれ?金沢さんのお母さんが飾られたのよ。娘はバラが好きだから、って仰ってね。…そろそろいらっしゃるわ、さっきお電話差し上げたから」
母が来る。その言葉に何故か動揺する。
田川先生は軽く問診と触診をし、特段異常がないことを確認すると、また後できますと病室を出た。浅見さんも「とにかくゆっくり休んで」とそれに続いて出ていった。
姿勢を戻し、ふわふわの枕に頭を沈める。綺麗なバラが心を癒す。けれど、何だかおかしい。痛くもないし、気持ち悪くもないけれど、この違和感はなんなんだろう。
人影が見えて、誰かが廊下を通り掛かるのが分かった。母だろうか。開けっ放しのドアの向こうにいるその人と、仕切りのカーテンの隙間から目が合う。
「お?金沢さん、目が覚めたんだね」
屈託のない笑顔で、少年が近づいてきた。よく見ると彼もまた白衣だ。
「え、お医者さん…?」
戸惑いながらつぶやくと、彼は笑った。
「そう、お医者さんです。内科の黒川と言います。どうぞよろしく」
いくつくらいだろう。恐ろしい程に綺麗な顔をしている。
女装をしようものなら、まるでお姫様みたいだと容易に想像がついた。
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