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オレンジ・バトンを繋ぐ時
時計を見て、ため息。
窓の外を見て、瞬き。
「……おかしい」
ディーデリヒは首を傾げた。やっぱりそうだ、何度見ても時間も景色も変わらない。
自分の家は、大きな大きなデミエル川の川岸に位置している。オレンジ色の陽光に照らされて、川は赤くキラキラと輝いていた。見事な夕焼けだ。ボロくて小さな家ではあるが、朝昼夕夜とくるくる姿を変える宝石箱のようなこの景色は気に入っている。今日も相変わらず、窓の向こうの世界は美しい。
問題は。現在の時刻が、既に午後七時を回っているということ。本当ならばとうに日が沈んでいてもおかしくない時間であるというのに。
――何で、ずっと夕方のまんま?太陽が沈んでいかないんだ?
その日、夜の八時になっても九時になっても、太陽は沈みかかったまま動くということがなかった。
世界は夕方のままの状態で固定されてしまったのである。何かがおかしい、と王国も王国直属の魔術師や気象予報士も大慌てになったそうだ。原因が全くわからない。強いて言うなら、この世界を身守る神様になんらかの問題が起きた可能性が高いと。
残念ながら、神様がこの地上に降りてきたとされているのは、今からもう何十年も前のこと。その姿を見たことがある人さえも限られている。神様、と皆は呼んでいるしその存在も知っているが、神様の名前さえも知らないのが人々の実情だった。当然、どのようにしてコンタクトを取ればいいのかもわからない。
ただ、昼と夜の時間帯のまま世界が変わらないというのは、作物の育ちにも大きな影響を及ぼすことになる。昼ほど太陽の光が強くなければ、太陽エネルギー発電の効率も落ちる。逆に月光を栄養にする一部の植物は育たないどころか枯れてしまう。なんとか原因を突き止めなければ、と大人達は皆必死になっていた。まだ十二歳のディーデリヒも同じである。
今年百十歳になる村の村長ならば、何かを知っているかもしれない。夕方で世界が固定されてしまってから一週間後のこと、王宮に行って戻ってきた村長にディーデリヒは話を聞いてみることにしたのだった。
彼が王様に呼ばれた理由と同じである。彼は八十年前にこの世界に神様が降りてきた時、実際に顔を見て話をしたことのある数少ない人間の一人であったからだ。
「村長、教えてくれよ!どうして世界は夕方のまま動かなくなっちゃったんだ?」
村長は、現在の王様のことを嫌っていると知っている。王様に、自分が知っていること全てを話していない可能性もあるとは思っていた。案の定、村長は王様に“神様の姿を見たこともあるが詳しくは覚えていないし、どこにいるのかもわからない”とだけ話して帰ってきてしまったのだという。
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