オレンジ・バトンを繋ぐ時

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 ***  友達のスヴェンやヨハンネス、クリスティーナと共に村中の探索が始まった。神様を探す部隊は、全て子供で結成されている。神様は、基本的には子供の前にしか姿を現さないとされているからだ。八十年前に村長の前に現れたのも、正確には村長ではなく、一緒にいた村長の息子に会いに来たからだろうと言っていた。八十年前の時点で子持ちだった村長というのも凄い話である。医療が発達し人々の寿命が延びた今のご時世であっても、百十歳まで現役で村長を務める人間はそうそういないに違いない。  村の西の端、ヒルデ山の麓の付近をディーデリヒが探索していた時のことだった。もう少し山を登ってみるべきか否か、迷っていた自分の耳にこんな声が聞こえてきたのである。 「ナフトの奴は、そっちには行かないよ……」  どこか困ったような、男の子の声が聞こえた。 「あいつは確かに暗いところが好きだけど、その西の山の方は魔物の瘴気が強い。そっちにはあまり行きたがらないだろうさ」 「魔物?そんなもの山の中にはいないけど……」  思わず答えてしまってから、はっとして振り返った。いつからそこにいたというのだろう。オレンジ色の、ピカピカした服に、同じ色の髪と目をした小さな男の子が立っていた。木陰からぴょこりと顔を出すその子の年の頃は、自分よりひとつふたつ下くらいに見える。  本能的に、ピンと来た。ひょっとして、彼が夕方の神様なのではないか。ディーデリヒが尋ねると、彼はこくんと頷いた。そして自らをアベント――夕方と名乗ったのである。 「世界のみんなに、迷惑をかけちゃって本当に申し訳ないって思ってる。でも、僕もどうすればいいかわからなくて、困ってるんだ」 「どういうこと?」 「僕たち四人の神様は、リレーみたいにバトンをすることで、世界を自分の領域に切り替えてる。でも、夕方の僕がバトンを渡すべき夜の神……ナフトの奴が天界からいなくなちゃったんだよ。だから、バトンを渡すことができなくて、世界がずっと夕方のままになっちゃったんだ。僕がバトンを夜に渡せないから、朝も昼も来なくなっちゃったんだよ……」
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