オレンジ・バトンを繋ぐ時

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 ***  オレンジ色の光がさんさんと照らす中、村の中心に位置する聖なる泉のすぐ近く、背の高い草木の影に隠れてディーデリヒとアベントはナフトを待ち伏せすることにした。  精霊の泉、と呼ばれるだけあってその泉の水はどんな川よりも透き通っていて美しい。ただ、精霊を実際に見たことがあるのは一部の召喚士や聖職者だけであるとされている。精霊の力は強大だが存在は非常に儚いので、少しでも穢れのある存在の前には絶対に姿を現さないのだそうだ。  まあ、半ば伝説のようなものとして聴いているだけなのだが。いずれにしても、一番神聖な場所がどこであるかと言われれば、此処と判断してまず間違いないことだろう。 「僕たち四人の神は、いわば兄弟みたいなものなんだよね」  一番末っ子が僕なんだよ、とアベントが教えてくれた。 「夜の神であるナフトは、いわば長男のようなもの。すごく責任感が強くて、誰より思いやりの深い神様なんだけど……だからこそ、何でこんなことしたのかわからなくて。だって、僕のバトンをナフトが受け取ってくれないと、この世界に夜が来なくなっちゃうんだよ?誰よりお父様とお母様の言うことを聴いて、なんでも真面目にこなしてきたナフトがなんで……」 「神様にも、お父さんやお母さんがいるのか?」 「いるよ。二人とも、すっごく厳しいんだ。ナフトは優等生だけど、僕は劣等生。いっつも叱られてばっかりで、そのたび大泣きしてたなあ。ナフトに庇ってもらったことも何度もあったっけ」  神様というから、もっと超常的な存在を想像していたというのに。困ったように笑いながら話す彼は、普通の子供とさほど変わらない存在に見えた。  少なくとも八十年以上生きていて、それでもまだまだ子供の見た目であるということは。きっと神様は、人間よりもたくさん学んで、長く長く育っていかなければいかないということなのだろう。自分の失敗ひとつで、世界が大変なことになるのだから、神様の仕事は大変だ。こんな子供がそれを担わなければならないなど、なんという重責であることか。 「神様の仕事、辛くない?」  思わずそう尋ねると、アベントは“そうでもないよ”と笑った。 「むしろ、幸せだよ。だって生まれた時から、僕たちの存在は必要とされてるんだって実感できるんだもの。誰かの役に立てて、家族がいて、世界がある。こんな幸せなことはないでしょ?」 「……なーんだ、俺と一緒か!」 「そうそう。神様の幸せも、人間の幸せも、あんまり変わらないんだよ。だって……」
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