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場違いすぎて、そんな質問をしてしまった。
「ははっ!話聞いてた?帰り道なの」
そうだ、そう言えばそう言ってた。
ーー社会人3年目。
大学4年生の頃、特に夢も無く、とりあえず大企業と呼ばれる会社に内定が決まったので、そこに就職した。
ドラマのように嬉しいことも無く、悲しいことも無く、淡々と毎日を過ごすうちに、何だか「働くこと」に嫌気がさしてきた今日この頃。
このミナトと名乗る男の素性は何も知らない。けれどこんな川に来て、悩みなんかないような爽やかな顔をして。
「帰り道なら、早く帰った方がいいんじゃないですか?」
思わず口から出た、少しトゲトゲしい声音。
しかし、ミナトはそんなことは気にしていないようだ。
「え、いいじゃないの〜。僕も川、好きなんだよね。」
「私、川が好きだなんて一言も言ってませんけど。」
「けど好きだよね?」
「………」
確かに好きだ。
全てを見透かしたような発言に、少し腹が立つ。
「川なんて好きじゃない……あなたに私の気持ちは分からない」
「分かるさ」
「絶対分からない」
「どうして絶対と言いきれるんだ?」
「それは…」
ミナトは不思議そうに首を傾げたかと思えば、そのままニヤリと笑い、こう言った。
「じゃ、おれと付き合ってみる?」
「…は?」
想定外すぎる発言に、私はぽかんと口を開けてミナトを見つめることしか出来なかった。
この人は何を考えているんだ。
新手の詐欺?
「君の知らない世界、沢山見せてあげるよ」
大量のクエスチョンマークを抱えている私を他所に、何故か自信に満ち溢れたミナト。
「ど、どうして私?」
「それは…」
私の問いに、少し考えるような素振りを見せる。
夕日がキラキラ。
川とミナトを輝かせている。
「結構前に、一目惚れ、したからだよ」
少し照れた顔のミナト。
「バ、バカなの…?」
夕日がいてくれて良かった。
真赤に染まっていく顔をを夕日で隠しながら、日常の中にいつもとひと味違う帰り道を感じた。
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