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Morning
君の体温を隣に感じて僕は目を覚ます。朝が弱い君の寝顔に癒されながら、せわしない一日が始まるのだ。
銀の星柄が入った遮光カーテンをシャーと音を立てて開ける。白い光に目を細め、「おはよう」と自分にしか聞こえない声で呟く。いつだって一番最初のおはようは太陽だ。寝坊助な君は、まだ目覚めない。
顔を洗って、パジャマを私服に着替えて、キッチンに向かう。朝食は決まって和食というのが僕たちの暗黙のルール。ご飯を炊いて、味噌汁をつくって、卵と鮭を焼く。もちろん副菜のおひたしも忘れない。
キッチンに美味しい蒸気が充満するころ、君はやっと起きてくる。大あくびをしてまだ眠そうなのに、ダイニングテーブルに整然と並べられた料理を見ると子どもみたいに目を輝かせる。
その表情がなんだか可笑しくて、可愛くて、僕は大好きだった。
「わぁー、美味しそう……ひーくん、毎日ご飯作ってくれてありがとう」
「はいはい、感心してるのはいいけど仕事に間に合わなくなるよ。冷めないうちに早く食べて」
「はーい」
君はパジャマ姿のまま、僕はエプロン姿のまま、向き合って手を合わせて朝食を食べ始めた。彼女の名前は春架。僕の交際相手で婚約者だ。大学の旅行サークルで出会って七年、同棲して二年、つい先月僕からプロポーズした。
「結婚式場の話なんだけど、ひーくんはガーデンウェディングとクラシカルウエディングどっちがいい? どっちも素敵で私じゃ選べないんだよねぇ……」
「僕は春架に合わせるけど、あえて選ぶならガーデンウェディングかな」
「あ、でも海の見えるところで結婚式っていうのもあるよ! それもいいなぁ……」
春架は花柄のお茶碗を片手に身を乗り出した。僕ははぁとため息をついて言う。
「それって、まだ何がいいか決まってないことでしょ。週末に気になる式場見に行こうか」
「うん! そうする。さすがひーくん! しっかり者」
「春架が大雑把すぎるんだよ」
僕は味噌汁を飲み干してから、しまったと手に口を当てた。春架がジト目で睨みつけてくる。
「それ、言わない約束でしょ」
「ごめんって」
「よろしい」
正直言って彼女は大雑把で、ずぼらだ。脱いだ服はそこらへんに落ちてるし、クローゼットの中も開ければ雪崩が起きそうになる。一番、大変なのは玄関だ。圧倒的に僕の靴よりも彼女の靴が多く、収納できず玄関のたたきに靴が溢れかえっている。
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