7. 逃 亡

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「とりあえず近くまで行くから、近くなったら 案内よろしく」 「はい、よろしくお願いします」 車は静かに走り出した。 しばらく沈黙が続いた。 和真は窓にもたれかかって 流れる景色をぼんやりと眺めている。 相変わらず顔色は悪く、気分が良さそうには見えない。 「どこか寄りたい所ある?」 「あ、えーっと…大丈夫です」 和真は目覚めた後から、ほとんど柊生と目を合わせて いない。 怒っているとか、体調のせいではない。 柊生もそれに気づいていた。 家でのヒートを気にして、距離を取ろうとしている そんなとこだろう。 「家の事…って、さ … 誰か相談したり、力になってくれる 人はいないの? 家族とか…」 柊生が聞きにくそうに話し始めた。 唐突な質問に和真は一瞬何の話かと、眉を寄せる。 「家…?あぁ、立ち退きの件ですか」 「うん」 「いないですね。お恥ずかしながら ワタシ私生児なんですよ」 「私生児…?」 「母がどこかのαに孕まされてできた子なんですって」 軽いトーンで話されて柊生は言葉につまった。 「だから父親は生まれたときから、いない存在で 母は俺が高校卒業して独り暮らしはじめて しばらくしたら居なくなって、それからずっと 音信不通です」 「…なんか…スゴい話だな…」 柊生が口ごもると、意外とよくある話しですよ、と 窓の外に目を向けたまま、小さく笑った。 和真のアパートには30分ほどで着いた。 2階建ての古いプレハブ小屋のようなアパートの前には 舗装されていない広めの駐車場があった。 駐車場というよりは空き地だ、線も引かれていないし そもそも1台も車が停まってなかった。 「これ、買い物行くの大変かと思って、適当に 食い物買っておいた」 言いながら柊生は後部座席にあったビニール袋を 2つ手渡す。 「めっちゃ いっぱい入ってるじゃないですか!」 和真は目を丸くして袋を覗きこむ。 「超助かります。遠慮なくいただきます」 そう言って目をじっと見てから 頭を下げた。 遠慮して受け取ってもらえなかったらどうしようと 心配していた柊生はホッとして 良かったと、笑った。
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