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8. 予 感
それじゃぁ、と車を降りようとする和真を
ちょっと待ってとひき止める。
「俺の名刺持ってるよな?
何かあったらいつでも携帯に連絡するんだぞ」
柊生の言葉に和真はニヤリと笑ってハイハイと
適当に返事を返す。
「待て、絶対にしてこないな おまえ」
「お、おまえ!?」
和真は目を見開いて驚いた。
「そっちの携帯教えて、こっちから連絡する」
「……い、いいですけど」
ー なんか急に距離つめてくるな、この人…
「090…」
「よし、1回鳴らすぞ」
「無理ですって、充電ないって言ったでしょ」
柊生は大きく息を吸い込んで止まった。
「確認できないじゃん!」
「嘘ついてないから平気ですって」
和真は半分あきれたように笑う。
柊生はぶつぶつ文句を言いながら車を降りて
助手席のドアを開けてくれる。
「荷物持つよ」
「いや、女の子じゃないんだから」
「怪我してるしさ」
食い下がってくる柊生に、和真は本当にいいです、と
首を少しふってゆずらない。
「ありがたいですけど、ここまでで」
そう言いきる和真の目が強くて…
きっと折れる事はないな、と柊生は悟った。
「分かった じゃぁここで」
「ありがとうございます」
和真は軽く頭を下げて、歩きだした。
柊生は和真が階段を上り、部屋へ行くまで
華奢な背中を見続けた。
和真は部屋の鍵を開けて、荷物を玄関に置いて
すぐ外に飛び出し、車に乗り込む柊生に
むかって手を振った。
柊生は気づかなかったけど。
「……バイバイ」
ー バイバイ違う世界の人…
小さく呟いた言葉は 乾いた空気に溶けて消えた。
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