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あれこれ考えて黙っていると
少年が クシュン と1つ くしゃみをした。
グッと柊生の手首を握る手も、冷たく
冷えきっている。
見ると、先ほど転んだ時にできたのだろう
手の甲には大きな擦り傷ができて血が滲んで
痛々しい。
「わかった、とりあえず寒いから車に入って。
中で話そう」
そう言って少年の肩を優しく押して
中に入るよう促した。
少年は躊躇っていたけれど、やがて諦めたように
ため息をついて、被っていたメットを脱いだ。
途端にまた、あの甘い香りが立って
柊生の元にとどく。
自分では気づいてない様子の少年は
「おじゃまします」
感情の読めない声でそう言って、ほんの一瞬だけ
柊生の目を、い抜くように見つめてから
助手席に滑り込んでいく。
一度見たら忘れられない印象的な鳶色の目は
まるで柊生の胸を貫いたように、心臓を騒がせた。
ー 何だろ。胸の奥がムズムズする…
柊生は目を覚ますように、軽く自分の頬を叩いて
落ち着け落ち着け、と自分に言い聞かせ、自分も
運転席に乗り込んだ。
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