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 ――俺の目の前で、硬貨が「チャリンッ!」という甲高い音を立てて石畳の上を跳ねた。  その音に、前を歩いていた若い観光客風の女が振り返る。 「おっと。これ、落としましたよ?」 「……えっ?」  硬貨をサッと拾い、女の目の前に突き出す。  女は怪訝そうな表情を見せていたが、やがて―― 「あ、ありがとうございます」 と言いながら、硬貨を受け取った。  「ポケットに入れておいたのが落ちたのかしら?」等と呟きながら、女がハンドバッグから長財布を取り出し、硬貨を仕舞おうとする。  ――と、その時。背後から小柄な男が忍び寄り、女の財布をひったくった! 「きゃっ!?」 「ああっ!? ど、ドロボー!!」  突然のことで事態を把握できず固まってしまっている女を尻目に、ひったくりを追いかける。  ひったくりは小柄な体からは想像できないスピードで駆けていき、ぐんぐんと距離を空けられてしまう。 「くそっ! 待て!」  ひったくりが大通りから路地の向こうへと姿を消す。  この辺りの路地は入り組んでいて、一度見失えばもう追いかけることは不可能だ。  俺は、その姿を見失ってたまるかと足に力を込め路地へと飛び込み――。
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