Sigh……

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 Aはヴォーカルで、結構いいセン行ってるんじゃないかと俺は思う。ちなみに俺はメンバーではない。あくまでAの親友兼ファンってやつだ。高校のころは、よく隠し撮りしたこいつの写真を女の子たちに(少なからず男もいたな)売り捌いて私腹を肥やしたものだが、それがバレてブン殴られたので、いまはもうやらない。  「イッパツ目でノリが決まるしな。なんかギンギンのやつでカッ飛ばそうと思ってるけど」  「うん。まあ妥当だよな」  「あとはビートでイカせるか、歌詞でイカせるか……選曲に迷ってるよ」  また過激なことを言う。とても見た目のイメージには合わない。黙って座ってりゃ、やたら甘いマスクの、おっとりした美青年なのに。この姿から、その昔こいつがとてつもないワルだったなんて、誰が信じるだろう。  たいていの場合、思春期の男が荒れはじめるのに理由なんかいらない。学校に幻滅し、親に幻滅し、自分にも幻滅して、苛立ちと焦燥はそのすべてに向けられる。それは単なるガキの甘えなわけだが、渦中で首をくくる奴もいれば、外に対して暴れる奴もいる。言うまでもなく、Aは後者だった。  ゾクに入ってかっ飛ばす、先公にゃ噛みつく、街なかで喧嘩騒ぎを起こして停学を喰らう、そいつが解けて出て来てみりゃ髪をまっきっきに染めている、その場で家に送り帰されたらマシンを駆ってまたぶっ飛ばす。16〜7のころのこいつはまるで、極限まで腹を減らした虎みたいだった。  でも、中坊のころから一緒だった俺は、こいつの本質を知っている。いわゆる弱い者いじめはしたことがないし(あえて助けに入ることもないが)、ナンパも嫌う。レイプなんざもってのほか。喧嘩は売られた時だけだ。なによりも、  「エクスタシーにつながる音楽ってさ、ロックだけだよな」  ロマンティストなのだ。  そうそう、と俺はにんまり笑う。知らないだろうが、唄ってるおまえにエクスタシーを感じてる連中が男女問わずいっぱいいるんだぜ、などど言ってまたぶっ飛ばされるのはごめんだ。
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