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Aをロックに出会わせたのが俺なら、その前にゾクから足を洗わせたのも、憚りながらこの俺だ。俺たち以外のだれも知らないが。
あいつが荒れまくっていた頃、ふたりの間は当然ながら疎遠になっていた。もちろん、顔を合わせれば挨拶くらいはしたが、それまでや今のように、用がなくてもつるむことはなくなっていた。俺はしたり顔で忠告するなんてことはしたくなかったし、あいつは真面目に学生している俺とはもう別世界にいるような気になっていたんだろう。
事故の心配はあったけれども、俺はあいつが自然に落ち着くのを待っていたかった。落ち着いて、戻って来るのを。ゾクに入っていると言えば聞こえは悪いが、実際に徒党を組んで走るより単独で走る方が好きだったようだし、いずれ自分から抜けるだろうと思っていたのだ。だが、ヘッドになるかも知れないとなると、話はべつだ。
Aが当時のヘッドに気に入られていて、いずれその座を譲られるかも、と噂で聞いて、俺は躊躇なくあいつに言った。いまでも一言一句、覚えている。
“おまえの葬式に出たあと、俺も死ぬから”
“はぁっ !?”
“おまえがゾクのヘッドになるって、そういうことだよ”
余計なお世話だとボコられると思っていたのに、あいつはびっくりした顔で------ただ俺を見つめただけだった。
そうして俺が鼻息も荒く回れ右して帰ったあと、すぐにマシンを売っ払ったというからイキナリな奴だ。おまけにゾクの名残のメットだけ下げて、徒歩でヘッドの家に脱退の挨拶に行ったとあっては、もう怖いもの知らずというか、無謀というか。五体満足で帰って来られたのが不思議なくらいだ。たぶん、ヘッドが侠気のある奴だったんだろう。
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