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「うわぁ!?」
突然隆起した火柱に環は度肝を抜かれた。火は瞬く間に環を取り囲む。火の熱気だけで火傷しそうだ。舞い上がる火の粉を避けるために身をよじるが、椅子ごと体を縛られている状態ではうまく力が入らない。
環は売井坂に対して声を張り上げる。
「売井坂さん!これ、あなたのしわざですよね!止めてください!お願いですから!」
しかし、環の言葉は彼の耳には届いていないようだ。売井坂はウソだウソだと繰り言のようにわめき散らしながら、自身の髪を振り乱している。完全に錯乱していた。そんな彼に呼応するように炎の柱が大蛇のごとくうねって、部屋中を駆け巡る。
さらされている肌に熱気が刺さる。立ち込める煙に肺が圧迫され、呼吸が苦しい。
炎は室内に置かれた調度品を襲い始めていた。棚に収まっていた本や置物を飲み込むと、それらが新たな火種と姿を変える。壁に掛けてあった時計は瞬く間に火だるまと化し、地面へ落下した。パリンッと激しい音を立てて壊れる。壊れた音に環はビクッと肩を跳ねた。
――どうしよう。ヤダ。怖い。怖い。怖い。
恐怖と混乱で体は小刻み震える。打開策を考えねばならないというのに、何も思いつかない。考えがまとまらない。
事態は着々と悪路を辿っていった。
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