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プロローグ
駅の改札を潜り抜けた瞬間から、男は全速力で走りだしていた。
駅舎の階段を転がり落ちるように降りる。仕事終わりの街中は怒号が飛び交うような賑わいを見せていた。男は勢いそのままにその中を突っ切った。
牛丼屋。薬局。本屋。様々な店の照明が夜の街並みを灯している。男はその灯りを頼りに行き交う人の合間を縫っていく。途中でOLの肩にぶつかり、相手から思いっきり睨まれたが、構っていられなかった。
上気していく体が冬の気温と手を取って、男のメガネを曇らせる。靄のかかった視界に舌を打ちながらも、男は足を止めようとはしなかった。
――急げ。急げ。急げ。
――早く。早く行かないと。
――あの子が、あの子が待ってる……!
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