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「赤羽」
教室中の視線を一身に浴びて、藤崎は軽いパニックに陥った。
藤崎の前列に座っていた赤羽が振り返る。
「私が、どうかした?」
「あ……」
何か言わなくては。しかし、フリーズしてしまったコンピュータのように、頭が真っ白になり何の言葉も浮かばない。
教室には演劇部の部員がまばらに座っている。大学の隅の方にあるこの教室を、演劇部はよくミーティングの場所として利用していた。
正面の教卓に立っている部長が、にやつきながら注意する。
「おい、ミーティング続けるぞ。藤崎、赤羽さんに告白したいならあとにしてくれ」
部長のその言葉に教室のいたるところから忍び笑いが聞こえてくる。
「部長!」
赤羽が迷惑そうな声で咎める。
そうなってやっと、頭が追いついてきた。
どうやら、寝ぼけて赤羽の名前を読んでしまっていたらしい。
顔がほてる。鏡を見るまでもなく、真っ赤になっているのが分かった。
「すみません」
小さな声でそう呟く。
藤崎はこの時間ほとんど発言せず、ミーティングが終わると同時に教室から飛び出した。
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