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春の日差しが降り注ぐ中庭のベンチで、隣に座っている村上は爆笑していた。
「おまえ、それは、気持ち悪いって」
笑い混じりでとぎれとぎれの声が、藤崎の神経を逆なでする。
「うるさい」
村上は涙をぬぐい、なんとか笑いを落ち着ける。
「いや、すまんすまん。まあ、大丈夫だよ、誰も気にしていないって」
「適当なことばかり言わないでくれ」
村上は持っていた缶コーヒーを一口飲んで、藤崎の肩をばしばし叩く。
「ほんとだよ。お前が赤羽さんの前だと挙動不審なのはいつものことだ」
返事の代わりに睨んでみせるが、本人は飄々としている。なぜこんな男に毎回相談してしまうのだろう。藤崎は大きくため息をついた。
「今度こそだめだ。絶対に嫌われた」
「悲観的だな」
「大事なミーティングで寝てしまっていた」
「そりゃ、お前は徹夜で脚本仕上げていたんだろ?仕方ないじゃん。気にすんな」
「それだけじゃない、赤羽さんのこと呼び捨てで呼んでしまった」
藤崎は村上の肩をつかみ、揺さぶった。
「なれなれしいやつだと思われたに決まってる。この先、どんな顔して会ったらいいんだ」
村上は慌ててその手を振り払う。
「おいやめろ、コーヒーがこぼれる。まず落ち着けって。そもそも、赤羽さんとは幼馴染だろ?呼び捨ての方が自然だよ」
「そりゃ、小学校の頃までの話だ。引っ越して中高は別々。大学で再会したときにはもう高嶺の花だよ。あんな美人で、成績もいいし、演劇部の中心だし——」
また一つ、大きなため息がでる。
「僕とは大違いだ」
「弱気だな。お前がそう言うなら、俺が狙っ……」
「だめだ。それはだめだ。絶対にだめだ」
「瞬発力すげえな」
村上はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「あ、いたいた」
演劇部の後輩が小走りでこちらに近づいてくる。
「赤羽先輩が、藤崎先輩のことを探していましたよ」
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