茜色に染まる

3/9
前へ
/9ページ
次へ
 春の日差しが降り注ぐ中庭のベンチで、隣に座っている村上は爆笑していた。 「おまえ、それは、気持ち悪いって」  笑い混じりでとぎれとぎれの声が、藤崎の神経を逆なでする。 「うるさい」  村上は涙をぬぐい、なんとか笑いを落ち着ける。 「いや、すまんすまん。まあ、大丈夫だよ、誰も気にしていないって」 「適当なことばかり言わないでくれ」  村上は持っていた缶コーヒーを一口飲んで、藤崎の肩をばしばし叩く。 「ほんとだよ。お前が赤羽さんの前だと挙動不審なのはいつものことだ」  返事の代わりに睨んでみせるが、本人は飄々としている。なぜこんな男に毎回相談してしまうのだろう。藤崎は大きくため息をついた。 「今度こそだめだ。絶対に嫌われた」 「悲観的だな」 「大事なミーティングで寝てしまっていた」 「そりゃ、お前は徹夜で脚本仕上げていたんだろ?仕方ないじゃん。気にすんな」 「それだけじゃない、赤羽さんのこと呼び捨てで呼んでしまった」  藤崎は村上の肩をつかみ、揺さぶった。 「なれなれしいやつだと思われたに決まってる。この先、どんな顔して会ったらいいんだ」  村上は慌ててその手を振り払う。 「おいやめろ、コーヒーがこぼれる。まず落ち着けって。そもそも、赤羽さんとは幼馴染だろ?呼び捨ての方が自然だよ」 「そりゃ、小学校の頃までの話だ。引っ越して中高は別々。大学で再会したときにはもう高嶺の花だよ。あんな美人で、成績もいいし、演劇部の中心だし——」  また一つ、大きなため息がでる。 「僕とは大違いだ」 「弱気だな。お前がそう言うなら、俺が狙っ……」 「だめだ。それはだめだ。絶対にだめだ」 「瞬発力すげえな」  村上はいたずらっぽい笑みを浮かべた。 「あ、いたいた」  演劇部の後輩が小走りでこちらに近づいてくる。 「赤羽先輩が、藤崎先輩のことを探していましたよ」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加