茜色に染まる

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 部室まで向かう道で、様々なパターンを考えたが、どれもピンとこない。  一番真っ先に浮かんだのは、寝ぼけて名前を呼んだことに対する文句を言われるということだが、誰からも好かれる赤羽の性格を考えると、そんなことはありえそうにもなかった。  緊張しながら部室のドアを引く。  がらりとした部室には、赤羽一人しかいなかった。椅子に腰かけて、藤崎が書いたばかりの脚本を読んでいる。藤崎が部室に入ると、赤羽は目を上げた。 「呼び出してごめんね」 「いや、ぜんぜん」  早口になっているのに気付いたが、自分では制御できなかった。  赤羽は何か言いたげな様子だが、言葉を選んでるようで、沈黙が続く。 「あ、ミーティングではごめん。その、変なこと言っちゃって。寝ぼけちゃってたみたいでさ。あ、別に、陰で呼び捨てにしてるとか、そういうわけじゃなくて、その……」 「もういいよ、わかったって」  赤羽は苦笑しながら止めに入る。 「ごめん」  またもや暴走してしまった恥ずかしさで、藤崎は思わずうつむいてしまう。 「呼び出したのはそんなことじゃなくて、確かめたいことがあるの」  赤羽はまじめな顔で藤崎をしっかり見据える。 「何?」  正面からの視線に、顔をそむけたくなる衝動をなんとかこらえながら藤崎は先を促した。  赤羽は息を短く吸って、尋ねた。 「今週末の約束、覚えてる?」 「え?」  あまりに予想外の言葉に、妙に高い声が出てしまった。  赤羽はだまって藤崎を見つめている。  藤崎は必死で頭をフル回転させる。 「ごめん、何の話かわからない」  赤羽はもっていた脚本を閉じて立ち上がった。 「そっか、やっぱり覚えてないんだね」  赤羽は藤崎の横を素通りし、部室のドアを開ける。 「もういいや、忘れて」 「まって」  その返事は、ドアがぴしゃりと閉められた音で拒絶された。
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