0人が本棚に入れています
本棚に追加
藤崎はシャベルを持って、空き地に座り込んでいた。もう少し待てば日が落ちる。
遠くの方から一つの人影が近づいてきているのが見えた。まるであの夢と同じように、手を振りながら近づいてくる。
「覚えてないんじゃなかったの?」
赤羽は口元を緩ませながらそう尋ねた。
「覚えてないよ。けど、毎日のように僕が見る夢のことを気にしていたでしょ?だから、夢にでてくるこの場所が、赤羽さんがいう約束の場所なんじゃないかって、一か八か待ってたんだよ」
「ふーん。それだけの理由で?一日中?」
藤崎はうなずく。
「なんでシャベルを持ってるの?」
「夢では穴を掘ってるんだ。だから、なんとなく」
赤羽は意味ありげに微笑を浮かべる。
日が沈みかけ、空は夢と同じ茜色に染まっていた。遠くの灯台が夕日を背にして、その先端の影がちょうど藤崎の足元を指していた。
「じゃ、掘って」
「どこを?」
赤羽は藤崎の足元を指さした。
「そこよ」
藤崎は一心不乱に穴を掘っていた。
夢とは違って、赤羽は無邪気に応援したりはしない。それでもあたたかな視線でその行為を見守っていた。
やがて、シャベルに何かがあたる感触がした。
そこには、二つの金属の箱があった。藤崎はそれに見覚えがあった。十年前の出来事が、鮮明にフラッシュバックする。
最初のコメントを投稿しよう!