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藤崎と赤羽は、掘りだしたタイムカプセルを持った。
赤羽はゆっくりと自分の箱を開ける。
「懐かしい!みて、これ、覚えてる?」赤羽は言った。
手には、小学生だったころに流行ったアニメのキャラクターを持っていた。
「あの頃は、これが何より大切で、これより大事なものなんて存在しないって思ってた」赤羽は呟く。
藤崎は微笑もうとしたが、出来上がった表情は笑顔というより引きつっているように見えた。
「本当は、約束のこと覚えていたんでしょ?」赤羽は真顔で尋ねる。
藤崎の心臓が跳ね上がる。
「それは……」
「私が夢の話に反応したっていうだけで、ここまで来るわけないじゃん。シャベルまで持ってさ」
藤崎はうつむいて何も言い返してこない。
「なんで覚えてないふりを?私を試したかったの?」赤羽は息巻いて問い詰める。
永遠にも似た、数秒間の沈黙があった。
「二人でここに来るのが、怖かったんだ。僕が覚えていないと言えば、赤羽さんは幻滅して、ここには来ないと思っていた」藤崎が呟く。
「どういうこと?」赤羽は怪訝そうに眉をひそめる。
「これを一緒に掘りだすとき、こうしようって、決めていたことがあるんだ。でも怖い。僕たちは変化しすぎていて、今じゃ赤羽さんは高嶺の花だ。上手くいく気がちっともしない。でも、開けるよ……」
藤崎は箱から指輪を取り出した。安っぽいプラスチックでできた子供のおもちゃ。
藤崎はゆっくりと赤羽に歩み寄る。
彼女の右手を取り薬指に指輪をはめる。
「僕と、付き合ってほしい」藤崎が言う。
息をのむ赤羽。
「うん」
赤羽は短く答えて、赤面した顔を逸らした。
二人は手を取り合って歩き出す。
茜色の夕日が、二人をやさしく照らしていた。
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