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ヒガンバナ
彼岸花・・・それは死者の魂の化身という言い伝えがある花。
紅く咲き誇るその姿を眼にしたことがない者など居ないだろう。
「さて、今宵は満月彼岸花が美しく咲き乱れる」
和装姿の少女は怪しげに笑みを浮かべ一輪の彼岸花を手に取った。
その姿は神秘的で見とれてしまうほど美しい。
「時雨様そろそろお時間ですよ。」
燕尾服を着た青年はそう言うと
時雨と青年に呼ばれた少女は
そう・・・
といい彼岸花を髪に挿した。
「どうかしら?」
時雨は青年に聞くと青年は
「よく、お似合いです。」といい微笑んだ。
少女は、満足そうに笑い
「さぁ、皆の所に急ぎましょう」
静かにそう一言言うと
少女は、屋敷の中に入ると青年も続いて入っていった。
長い廊下を進んでゆくと賑やかな音楽と話し声が聞こえてくる。
「先に始めているようね」
「そのようですね」
青年は、襖を静かに開けると少女はゆっくりと部屋の中へと進んで行き辺りを見渡した。
少女が部屋の中に入ると部屋の中は静かになり皆が一斉に少女を見た。
ひとりの男が少女の前に出てお辞儀をすると
「今宵、宴に呼んでいただきありがたき幸せでございます。一族も皆、喜んで・・・」
少女は、男が言い終わる前に
笑みを浮かべ
「それは、私の行く手を阻む理由になるのですか?」
少女のその言葉を聞き男は顔を青ざめ
「も、申し訳ございません!時雨様」
「もう、よい下がれ。今回だけ許してやろう・・・。次は、分かるな・・・」
「・・・時雨様、皆が待っておられますよ」
青年は、少女に落ち着いた声で言うと微笑んだ。
「・・・そうね。客人を待たせるのは失礼になるわね。」
宴を始めよう
少女は、高らかにそう言うと
部屋の中は再び賑やかな音楽と話し声に溢れ返った。
宴は、夜遅くまで続き
少女は満足げに見ていた。
「そろそろですね」
青年は一言少女にそう告げると
少女は
「始めようか。客人を送り出す用意を」
こくりと青年はうなずくと静かに宴の席を離れた。
少女は、ゆっくりと立ち上がると
「そろそろ、時間だ。皆、表に」
少女の言葉を聞いた者たちはぞろぞろと表に出ていく。
そこには、紅、蒼、白の彼岸花が風に揺れ美しく咲いていた。
「時雨様どうぞこちらを」
青年は、そっと少女に和紙とろうそくを渡した。
「ありがとう。あなたは、少し下がっていなさい。」
青年は、少女に言われた通り後ろに下がった。
「では、始めよう。」
少女は、和紙にろうそくの火をつけると
その紙を彼岸花の咲き誇る庭に落とす。その炎は彼岸花を焼きつくしてゆく
少女は、手を合わせ
ぶつぶつとなにかを呟いてゆくと彼岸花と共に客人はひとり、またひとりと光となって天に昇って行く。
そして、最後のひとりがゆく頃には優しい朝の光が少女と青年を照らした。
「お疲れ様でした。時雨様」
「・・・皆、これで迷うことなく逝けただろうか」
少女は、そうぽつりと呟くと
静かに瞳を閉じた。
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