【6・秘密】

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 不思議そうな顔を向ける彼女に、やはりところどころどもりながら、ぼくは来訪の意を伝えた。 「あらまあ! それはそれは!」   途端に驚きと喜びがないまぜになった表情へとかわった彼女は、 「はじめまして、由実の母でございます!」  丁寧に頭をさげた。  そして、半開きだったドアをさらに開けると、 「由実ちゃ~ん! 由実ちゃ~ん! お友だちが見えてくださったわよ~!」  まるで少女がはしゃぐように、家の中へ向かって声をかけた。  やっぱりお母さんだった―――。  それにしても、具合が悪いようすなどちっとも感じられないが、もう完治したのか……? 「あらまあ! それはそれは! ありがとうございます~! どうぞ、どうぞ中へ!」  すぐさまこっちにふり返った母は、門を開けた。  そこまで感激されるようなことでもないけど……と思いながら、すぐ辞すると心に決めていたぼくは、 「いえ、ここで」遠慮した。  が、 「いえいえ、そうおっしゃらず、中へどうぞ、どうぞ!」  有無をいわさぬ語調に、拒否が通じそうもない気配を感じ、 「は……じゃあ……」  一つ頭をさげて、ぼくは石井家の敷地内へ足を踏み入れた。震えていた両足でも、なんとか自然に移動できた。 「ママ~。お姉ちゃん、今いないわよ~」  家の中からそう声が返ってきたのはすぐだった。 「えっ……?」  思わず口を衝いた。  それは、ふたり暮らしだと聞いていたのに、なぜ? という疑問からではなく、その返事のあとに顔を覗かせたのが―――石井由実、本人だったから。  お姉ちゃん……今いないわよ?  ぼくと目が合った由実(?)は、かすかに怪訝さを含んだ会釈をよこした。その眼差しは、完全に見知らぬ人物に向けるものだった。 「どこいっちゃったのかしら?」 「わからないけど……」 「お買い物かなにかかしら?」 「聞いてないけど、私」 「そう……。あ、こちらね、由実ちゃんのクラスのお友だちの……えっと……」 「い、居海です」  尋ねるような母の視線を受け、改めてぼくは名乗った。 「そう、居海さんがお勉強のノート届けてくださったのよ、由実ちゃんに」  変わらず嬉しそうに、由実の妹らしき彼女に母は説明した。 「あ、そうなの。……それは、ありがとうございます」  妹らしき彼女は、怪訝さをすっかり隠すと、ニコッと笑って頭をさげた。
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