アカシックレコードに問う

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 夕日が窓からさし込み、リビングのソファーを染める。  結婚して26年、働き盛りの夫はまだしばらく帰ってこないだろう。  ふたりの子どもたちは独立して一人暮らしを始めた。  毎日が平和に、滑らかに過ぎてゆく。  京子はリビングの掃き出し窓を開けてウッドテラスへと出た。  高台にあるこの家の、このウッドテラスからの景色が大好きだ。街と、その向こうの海まで一望できる。  屋根がついて雨が降りこまないテラスには、ローテーブルと小さなラグが置かれている。ローテーブルの上にはお気に入りのアロマポットと、小さなスピーカーに刺さった音楽プレーヤー。  アロマポットに香油をたらし、ろうそくに火をつける。日が落ちて暗くなり始めたテラスをろうそくの炎が柔らかく照らした。今日の香りはサンダルウッド。静けさを魂にしみこませるような香りだ。  スピーカーから流れるのは、いつものジャズ。緩やかな音楽が、ラグでリラックスする京子の耳を撫でる。  京子は目を閉じた。  程なく、音楽が遠のく。沈黙の中で、意識の奥深く、京子は世界の記憶にそっと触れた。  アカシックレコードとは、世界の記憶。現在過去未来、この世界に存在するあらゆるものの経験が集積している。  誰しもがほんの少しのコツでアカシックレコードに繋がり、世界と記憶を共有することができる。それを京子が知ったのは、去年の今頃だっただろうか。  一人静かに過ごす黄昏時、京子は世界の記憶と繋がる。  アカシックレコードの膨大な情報の波に翻弄されながら、心地よく身を任す。  ああ、確かに今、京子は世界と繋がっている!  このままずっと、波と戯れるように過ごしたい。そんな欲望に必死で抗って、京子は答えを探す。  この世界の記憶へと潜る。  深く、深く。 「鶏肉と人参とシイタケで作れる晩御飯、何がいいかしら」  ……それはクックパッドに聞いて。
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