群青色の空

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 下駄箱に便箋が入っていた。差出人を見ると幼馴染の田中(たなか)悠真(ゆうま)からだった。放課後、誰もいない教室でこっそり封を開けた。  手紙はラブレターだった。隣のクラスの男子って悠真だったのか。彼は私のことが好きだという。出来れば、一緒に過ごす時間を増やしたいそうだ。そんなことを言われてもどこか他人事。私は枯れている。    悠真の印象は決して悪くない。同じ団地に住んでいるが、噂話に加わることのない一家だった。それに助けてもらったことがある。母から叱責され堪えられず、団地の踊り場に座り込んで泣いていたとき何度か慰めてくれた。彼から受け取った手紙は捨てる気にならなかった。彼の前なら捻くれてしまった私でも、別の自分を出せるかもしれないと夢みたいなことを考える。  自宅に帰って手紙を読み直す。顏がちょっとだけ緩む。すると酒臭い母が部屋に入って来て、大切な手紙をびりびりに破ってしまった。 「どうして酷いことばかりするの」 「中学生のくせに色気づくんじゃないよ。あんたなんか幸せになれないんだよ。男女交際なんて許さない。必ず断わるのよ」 「なんでなの? 意味がわからないよ。付合うにしても断るにしても、自分で決める」  珍しく母に反抗した。 「勝手にすれば」  彼女は、素っ気なく言った。泣くもんか、自分に喝を入れた。  悠真にどう返事しようか迷ったが、結局友人としてさらに仲良くなりたいという内容の手紙を下駄箱に入れた。  お互いに帰宅部だったので、帰りは一緒に話をするようになった。 「悠真、どうして私に手紙くれたの?」 「明日香のことが気になるから」  どう返していいのかわからず、黙り込む。気まずい。 「悠真って変わっているね。私の家の噂は聞いているでしょ」  自分で傷をえぐってしまう。こんなことは言いたくないのに。 「そんなの関係ない」 「もっと優しくて可愛い子がいるのに」 「俺は、お前がお母さんとうまくいかずに辛い思いをしているのを知っている。それでも腐らずに、我慢しているのをずっと見てきた。その強さに惚れた」 「悠真言っていて恥ずかしくないの?」  私の方が赤くなっていた。おでこが熱かった。
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