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「大丈夫ですか?」
不意に声をかけられ振り向く。
そこには、穏やかに微笑む妙齢の女性の姿があった。
宿へのチェックインを済ませ外に出た。車1台がやっと通れるような、細い道がくねくねとうねり続いている。道脇に等間隔で並ぶ街灯は、黒のアイアンで縁どられたアンティーク調のもの。なかなか洒落ている。陽が落ちつつある今、その街灯は点滅を繰り返し―灯りを点した。
頭上に掲げられた文字に、この通りが商店街であることを知る。
夕暮れとあって、商店街の通りには人がいない。ちらほら、店仕舞いを始めているところも見受けられる。
ここ、群馬の水上には1人でやってきた。週6日の1年と半年皆勤賞。加えての休日出勤。朝から晩まで休まず労働する自分への労いのつもりで、有給を使った。
ふと脳裏を過るのは、軽蔑するような視線を私に向ける直属の上司の顔。
「若い者が偉そうに」
吐き捨てるように言われた言葉に、私は笑みを貼り付けた。そして、感情を殺して、口を動かす。
「申し訳ありません」
深々と頭を下げ、そこで強く唇を引き結ぶ。零れそうな本心を、飲み下すために。
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