化石になった花

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なんの店なのだろう、と改めてガラス越しに店内を見つめれば、そこには壁一面を彩るドライフラワーで作られたリースの飾りだった。 直置きされた透き通る色をしたなめらかな形状の瓶や大きなブリキのバケツに飾られたドライフラワーは、どれも美しい姿でその魅力を振りまいている。 店先には、ドライフラワーを使った小さな雑貨がお行儀よく並んでいた。 目を奪われた私は、じゃあ少しだけ、と言い店内に足を踏み込む。その私に、店主と思わしき女性は、ええ、どうぞ。と柔らかい声で言った。 全面むき出しのコンクリートは冷たさを放っているのに、不思議と店内は温かみを帯びていた。店内の3分の1を占める大きな作業用のテーブルには、いくつもの花やその資材が無造作に並ぶ。作品の製作途中なのだろう。天井には3本の枝が渡され、そこに数えきれない数の花たちが吊るされている。 それらの光景はどこか私の生きてきた世界とは異質で、得体の知れない恐怖と同じくらい、気持ちが高揚するのを感じた。 「ご旅行ですか?」 尋ねられた言葉に、ええそうです、と答える。そして黙々と天井から吊るされた花の様子を見ていた私に、女性は口を開く。
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