化石になった花

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「ああやって逆さに吊るして乾燥させることで、ドライフラワーになるんですよ」 「ドライフラワー…。そうなんですね、知らなかったです」  委縮しながら、私は答える。  私くらいの歳の女が、ドライフラワーについて知らないのが少しばかり世間知らずなことは、理解していた。それでも、勉学とアルバイトに明け暮れ就職をしてから一人暮らしを始めた私は、私生活を潤わす余裕などなかった。そんなことよりも、数字の羅列を相手にするだけで生活できた私には、必要のない知識でもあった。…これはいい訳なのだけれど。  この女性にも、職場の上司のように軽蔑するように見られる気がして、視線を下げる。 視界に飛び込んできたのは、下ろしたてのグレージュのパンプス。初任給で買ったブランドもの。履く機会がなく、ずっと靴箱で眠っていたそれは色味が気に入って買ったはずのなのに、埃が積もり変色したように見えてしまって、沈む心に追い打ちをかけた。  「…あたしね、ドライフラワーって、好きじゃなかったんですよ」
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