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たしかに、左門寺と幸守の前にあるビーフシチューからは、先ほどまで立ち込めていた湯気がもうなかった。それに気付き、左門寺も幸守もあ______。と言った。せっかく温めてもらったというのに、これは失礼なことをしてしまった。しかし、波戸はすでに諦めているようで、「まぁ、先生方がそんなに生き生きとして互いが話す時なんてなかなかないことですし、そういう時は大体事件のことを話してる時ですから、諦めてますけど」とため息混じりに話したのである。これは理解というべきなのだろうか______。
食事に一時間以上かけて、やっとビーフシチューを食べ終えた左門寺と幸守は、波戸がいなくなった暖炉の居間で引き続き話していた。暖炉のオレンジ色の優しい灯りは、薄暗いその部屋を少しだけ明るくする。ゆらゆらと揺れる炎を見つめながら、幸守は「次は“は”が頭文字の人だぞ」と言った。
「あぁ。たしか、君が調べた中では“浜松区”と“浜平区”だったな。君はどっちだと思う?」
「どっちも中央区からかなり離れてるとこだよなー。行きやすいのは浜松区だと思うよ。浜平区より交通の便が良いから」
「なるほど。犯人がそこまで向かう交通の便からそう推理するか。うん、良い推理じゃないか」
褒められて少し照れる幸守。「そう言う左門寺はどっちだと思うんだ?」と彼が問いかけると、左門寺は少し考え込んでから、「僕も君と同じかな」と答えた。
「へぇ。じゃあその理由は?」
幸守が続けて質問する。「別に君の真似をしたわけじゃないよ」と左門寺は言って、「それは浜松区の方が住宅街が多いからさ」と答えた。
「住宅街が多いとやりやすいのか?普通は逆じゃないか?人を襲うならなるべく人がいないところを探すはずだろ?」
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