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「君もまだまだだね、幸守くん」と、左門寺は彼を小馬鹿にするような口調で言った。そして、得意げな顔をした左門寺は、彼に説明を始めたのである。
「これまでの被害者たちが殺害されていた場所を思い出してみるといい。一件目はアパートで、二件目はマンションだったじゃないか。つまり、どちらも被害者が住んでいる場所で犯行は行なわれている。ということは、次だってそうなる可能性が高いと思わないかい?」
その説明を聞き、幸守は思わず唸った。「なるほど」と言った彼は続いて湧いて出た疑問を左門寺に投げ掛ける。
「でも、それじゃあ犯人はなんでそんな危険なことをしたんだ?それも何かのこだわりか?」
「もしかしたら、犯人はそうでもしないとわからなかったのかもしれないね。被害者の頭文字がさ」
「じゃあ、犯人はわざわざその現場に行って手当たり次第目的の頭文字の人を物色したってのか?そんな、あり得ないだろ」
「あくまでこれは可能性の話だよ、幸守くん。もしかしたらそうじゃないかもしれない」
「そうじゃないとしたら何だ?」
「それはわからない。僕に聞いてばかりいないでもう少し自分で考えたらどうなんだい?」
度々、左門寺の前にいると考えることを放棄してしまう。それは幸守の悪い癖である。時折左門寺からは、君も頭が良いんだから少しは考えたらどうなんだ?と言われるのだが、幸守からして、誰しもが認める天才、左門寺究吾にそんなことを言われても嬉しくない。むしろ馬鹿にされているように聞こえてしまう。この時もそうであった。幸守は「凡人の俺が考えるより天才のお前が考えた方がより早く真相に近付けるだろ」と言ったのだが、それに左門寺はこう切り返した。
「だがいつも事件解決の取っ掛かりを見つけられるのは君のなんてことない疑問からなんだ。君がいなかったら僕の推理は成り立っていないことがあるんだよ」
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