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普段彼からの褒め言葉で喜ばないようにしている幸守だが、それにはさすがに口元が緩む。左門寺の完璧な推理の一端には、いつも自分の発言があったのかと思うと誇らしい。思わずニヤニヤとしてしまっている幸守は、「そんなに笑うなよ、気色悪いぞ」と左門寺に言われ、一瞬にしてその喜びが冷める。
「お前な、人が喜んでる時に水差すなっての」
「喜んでいたのか。いやいやそれはすまない。あまりに気持ち悪い顔をしていたものだから」
辛辣を超えてもはやそれは暴言であった。幸守は「お前のそれ、何とかならないのか?」と聞いた。ここで言う、“それ”というのは、左門寺の悪い癖を示している。それは他人に対しての“暴言”とも取れる言い方である。度々この言い方をしているせいで捜査が上手く進まなかったり、作らなくていいところで敵を作ってしまうことがある。事件を解決することで人から恨みを買い、加えてその言い方などでまた人から恨みを買っていたら、ボディーガードが何人いたって足りないだろう。それを指摘された左門寺は、フンと鼻で笑ってから、「僕は素直なんだよ」と答えたのである。
「それはな、素直って言わねーの」
「じゃあ何て言うんだ?」
「言葉の暴力って言うんだよ!」
「僕は暴力なんて振ってないじゃないか」
無自覚の“言葉の暴力”が一番タチが悪い______。幸守はそう呟いて、それと同時にひとつため息をついた。
さて______。と、左門寺は呟いて、自分宛てに届けられた手紙を再び眺め始めた。ゆらゆらと揺れる暖炉に焚かれたオレンジの炎を前に、彼はまた呟くように言った。
「もう好きにはさせんよ、殺人犯さん」
「次のは止められるのか?左門寺」
幸守が聞くと、左門寺は「止めたいところだね」と答えた。
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