花より団子

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さむ______。そう呟いた彼は、少し暖炉に当たろうと思い、居間へと向かう。そこで彼は、自分よりも先に起きていた左門寺の姿に驚いた。 左門寺はいつものように一人掛けのソファーに腰掛けて、暖炉の灯りを頼りにまた分厚い本を読んでいた。 「今起きたのか?幸守」 「お前は寝てなかったのか?」 「あぁ。なんだか眠れなくてね」 「眠れていないのはいつものことだろ。それに、俺も寝てない。今の今まで執筆してたんだ」 「そのようだね。結構進んでいたみたいじゃないか」 幸守の癖で、パソコンのキーボードを強く叩くようにタイピングしてしまう。その音を聞き、左門寺はそう推理したのだ。「スランプは治ったのかな?」と左門寺が続けて聞くと、「まぁなんとかな。次の締め切りには間に合いそうだ」と幸守はため息混じりに答えた。 「今日は二人とも寝なかったって感じか。そんなんでお前大学の講義とか大丈夫なのか?」 「僕のことは大丈夫さ、もう慣れているからね。それに、僕の今日の講義はそこまで入ってない。午後からは休講にしたし」 「そんなことしてよくクビにされないよな、お前」 「僕はこれでも若き権威だからね。そう簡単にはクビにされないさ」 得意げに左門寺は言った。彼のことだから大学上層部の良くない話のネタを掴んでいるのだろう。まぁそれを使って相手を強請っているのなら、すでにそれは犯罪行為なのだが。もちろん左門寺はそれをわかっているだろうし、もしそうだったとして、元刑事の幸守に対してそれを公言するような狂った人でもない。真相は闇の中なのだ。そんな左門寺は「君はこれから寝るのかい?」と幸守に聞いた。それに彼はあくびをかきながら答えた。 「いや、まだ区切りの良いどこまで書けてないんだよ。これからその執筆さ。本格的な朝になるまでに書き上げて、寝るのはそれからだな」
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