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「そんなに怒ることかい?」左門寺も菊村と同じ気持ちであった。
左門寺がそう問いかけると、薫はギロリと彼を睨み付けて、「なんで黙ってたんですか?」と聞いた。
「なんでって、聞かれなかったから。聞かれてもいないのに話すこともないでしょ」
「はぁ!?こういうことは話しますから普通!警部もですよ!調べてみてわかったんですけど、巽貴之を逮捕したのって警部なんですよね?じゃあなんで私にこのことを教えてくれなかったんです?それと、なんでこんな人を捜査に参加させてるんですか!?」
「なんでって、先生は優秀だからだよ。君だって見てきたはずだろ?先生はたしかにあの巽貴之の息子だ。だが、それでも先生には犯罪を憎む正義感と、その正義感を行使できるくらいの優れた頭脳がある。そのおかげで幾つもの難事件を解き明かしてきたじゃないか。それの何が問題なんだ?」
そう答えてから菊村は薫に質問した。
薫にとって左門寺は“危険人物”であった。彼があの『巽一族』の血筋の人間であることは、警察組織の人間からすれば、絶対に親密に関わってはならない人物であることに変わりはない。そして、彼女はこのことを警察の上層部は知っているのかを危惧していた。それを菊村に聞くと、彼は「いや、知らないよ。これは俺が独断でやってることだ」と答えた。そうなると、事態はかなり危険である。菊村が責任を取れば済むという問題でもない。下手すれば、この『凶悪犯罪課』が解散させられてしまうこともあり得る。やっとの思いで刑事になれた薫からすれば、その努力が水の泡になりかねない。それだけは何としてでも阻止したかった。薫は「上にバレたらどうするんですか?」と呆れた口調で菊村に聞いた。
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