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彼女とは親友であり、それは一方的な想いではなくお互いにそう想っていた。 それは彼女の口から直接聞いて知っている。
『ねぇ明美ー! 今日の放課後空いてない?』
『明美ー、勉強教えてよー』
『明美を紹介したい友達がいるんだけど、いいかな?』
愛佳(アイカ)は明美と違って可愛くて性格がよく人気者だった。 愛佳が一人になると、すかさず女子が彼女に群がう。 だけどそのようなことで嫉妬などしなかった。
彼女の幸せは自分の幸せだと思っていたのだ。
『ごめんね、明美が待っているから』
それに大抵の場合は自分のことを優先してくれる。 周りの女子からは鋭い視線を送られるが、そんなことは気にしない。 彼女が隣にいてくれるだけでよくて、毎日がとても幸せだった。
このまま愛佳と二人だけの世界になればいいのに、そう願うこともあった。 だけどある時、彼女の恋事情に変化が起きた。
『・・・え、菅原先輩と付き合えたの?』
『そうなの! 昨日の夜、電話で告白されちゃった』
『よかったじゃん! 菅原先輩のこと大好きだったもんね』
『うん、ありがとう! 応援してくれたおかげだよ。 私今、めっちゃ幸せ』
そう言って眩しい笑顔で彼女は笑った。 菅原というのは二つ上の先輩で、三年間片思いしていると相談されていた相手。 恋が実ったということで自分のことのように喜んだ。
それからは本当に毎日が幸せそうだった。 どんどん可愛くなるし、どんどん女子力も上がっていた。 毎日隣にいるのだからその変化が分かるのは当然だろう。
そんな素晴らしい子が自分の親友で誇らしく思っていた。 だが菅原先輩と付き合ってから二週間が経った頃、その心情に変化が起きた。
『え、週末キャンセル? どうして?』
『その、菅原先輩とデートをする約束をしちゃって・・・』
『週末は私と一緒に出かけるって、先輩よりも先に約束したじゃん!』
『そうなんだけど、断ることができなくて・・・。 ごめん! 絶対、埋め合わせはするから!』
『・・・』
自分の予定をキャンセルされたのは初めてだった。 自分はいつの時も一番に考えていたのは彼女のことだったのに。
―――何で、どうして、私は貴女の幸せを願ってあげたのに。
―――物凄く、モヤモヤする・・・。
自分でも薄々気付いていた。 彼女に対する想いが友達を越え、恋愛感情にまで高まっていたことに。
―――嗚呼、どうして協力なんてしていたんだろう。
―――貴女には私だけ、私には貴女だけいればいいのに。
彼女はその日を境に自分よりも菅原先輩を優先することが多くなった。 確かに他に友達はいる。 だが、それでは駄目なのだ。 誰でもいいわけではない。
―――取り戻さなきゃ・・・。
―――貴女は私のものなんだから。
そこで友人の伝手を使い、少々治安が悪く不良が多いと言われる学校へ通う知り合いに連絡をした。 そしてあることに協力してほしいと頼んだのだ。
数日に渡って作戦を慎重に練り、そして――――一年前の今日に事件が起きる。 いや事件を起こした。 先輩の家へと向かっている途中に不良と絡ませ拉致させた。
少し怖い思いをしてもらえばいいくらいに思っていたが、計画は想定通り進まないもの。 時間が過ぎても彼女が来ないと思った菅原先輩は不審に思い連絡をしたり、家の近所を探そうと出てきた。
そのタイミングで一人の不良が話しかける。
『アンタが菅原? ほら、これ』
渡したのは一枚の写真で、それは明美が二人でふざけて撮った写真を加工したもの。 合成写真だと分からない人間が見れば怒り狂うような写真だった。
『何だこれは!?』
『アンタとは最初からお遊びだったんだよ。 とっかえひっかえ遊び歩くのが好きみたいだぜ? 派手な見た目じゃないっていうのにな』
『そんな・・・』
それから数時間後、解放された彼女は茫然自失で先輩の家へと向かっていた。 抵抗でもしたのか身なりがボロボロ、心もボロボロ。
不良たちには“酷い目に遭わせ過ぎないように”と、言っておいたはずだったのだが――――
『先輩、先輩ッ・・・!』
『今まで何をしていたんだよ』
『知らない男の人たちに囲まれて、そのまま拉致されて・・・』
『嘘を言うな、俺は全てを知っているんだぞ。 そんなに軽い女だとは思わなかった。 俺たちはもう終わりだ』
泣き崩れる彼女に冷たく言い放ち、それきり口すら利くことはなかった。 二人は別れることになり、おおむね計画通りだった。
―――これでまた私のもとへ戻ってきてくれる。
そう思っていた。 菅原の家の前でその様子を見ていて、助けの連絡が来るのを今か今かと待ち詫びていたが、一向に連絡がこない。 彼女はよろよろと歩きそのまま何故か学校へと向かった。
ゆっくりと歩き教室の前を通り過ぎ、屋上へ出たところでようやく察する。 彼女はこのまま身を投げ死ぬつもりだと。
『止めて!』
止めないわけにはいかなかった。 静かに振り向いた彼女は泣いている顔で笑う。
『ごめんね。 もう、耐えられないんだ』
その言葉を最後に彼女は固く冷たい地の海に飛び込んだ。 夕日で空が赤く染まり、そして中庭が鮮血に染まった。 慌てて降りてはみたが、首がへし折れ全身の力が完全に終わっていた。
『どうして・・・。 私のもとへ、戻ってきてくれるんじゃなかったの?』
その亡骸を前に、ひたすら泣くことしかできなかった。
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