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本日は診療所も看護学校もお休みなので、すみれと二人で近所のカフェにて、昼下がりをゆったりと寛いでいた。 彼女は美味しそうにチョコレートパフェを堪能し、僕はそんな彼女を眺めては可愛いなぁと目を細めていた時だった。
『そちがドライか。 ふぅ、さんざん探しまわったぞ、我が忠臣よ』
僕の素性は、この見た目年齢十歳くらいのツインテールの少女の登場により、明らかになる。
……いや有り得ないだろう、この少女、髪の毛の色は鮮やかなピンクだ。 着ている服もどこぞやのお姫様みたいだ。 外国人少女のコスプレにしか見えない。 そのようなかなり年下の少女に、ちゅうしん……中心? とか言われても。 すみれも首を傾げながら少女を見ている。
「……どちらさん……ですか?」
『やはり……ここ十年音沙汰が無かったのは、それ故か。 そちは記憶を失ってしまったのではないか、というフィーアの見立ては間違えてはおらんかったようだな』
少女は訝しげに僕をじっと見てきた。 その瞳は透き通るような碧だ。
『帰るぞ、余らの世界、ベルーリンへ。 未だに戦火は消えてはおらぬ。 余は民のためにもこの命、散らす訳にはいかぬ……そちの助けが必要なんだ!』
鬼気迫る勢いで少女は僕の手をとろうとする。 いやいや、ちょっと、ちょっと待って欲しい、訳が分からない。
「やめなさいよ、彼、困ってるでしょ!」
すみれは席から立ち上がり、僕の手をとろうとする少女を制止しようとする。 しかし次の瞬間、少女に触れようとしたその手を引っ込めてその場にへたりこんでしまう。
『悪いが黙っていてくれ。……これはこちらの問題だ』
少女から、威厳のある強いオーラを感じた。 いや、オーラだけではなく、少女の全身が金色に発光しているように見える。
周辺のお客さんがざわめきだした。 まずい、と思っていると、少女ともその認識は一致したようだ。
『……仕方ない、行使する。 デュッセールドールフ!』
少女が呟くと、少女の指先から何やら強い波動のようなものが発せられた。 波動は少女を起点としてあっという間に周囲余すことなく広がり、カフェの店内を飲み込んだ。
思わず目をかたく閉じるが、数秒後怖々と目を開けてみると……店内の誰もが動いていなかった。 目の前のすみれも、僕の足元にしゃがみ込んだまま時が止まってしまったかのようだ。
『これで、話が出来るな。 なあドライ、余はそちを責めている訳ではないのだ。 帰ってきて欲しい。 そちの帰還をハルベス・ドゥツェントの皆も強く期待している』
少女は、僕に熱い視線を送ってきた。 しかし、僕はそれどころではなかった。 僕の周囲を愛する彼女を、訳の分からない力で抑え込んだから、それに対する怒りからか? 違う、そうではなく。 なんというかこう、全身がザワザワするというか、ゾクゾクするというか―――訳の分からない感覚に襲われて鳥肌が立った。 本能的に、この少女を見ていると何かがざわつくのだ。 それが何なのかは分からないのだけれど。
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