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少女は、そんな僕のただならない様子に気がついたのだろう。
『……先に、そちの記憶をなんとかしてやらねばならぬようだな。 たしかに、ここ十年はこちらの世界にて生活をしておった訳だから……混乱もするであろう』
少女は僕の頭に軽く触れ、呟いた。
『ヴッパータールー・ビーレフェールトン』
怖い。 怖い怖い……僕の中で、何かがほじくり返される。 蓋をして封じ込めていたものを、無理やりに開放させられる……! 身体が熱くなり、眩暈がした。 頭が割れるように痛んだ。
「や……嫌だ、やめてく」
『還ってこいドライ、余の元へ……!』
僕の中で、何かの映像が再生される……
――― 僕はまだ少年だった。 五人の仲間達と毎日魔法や剣術の鍛錬に励んできた。 僕らの主、この世界ことベルーリンを平和に導く救世主ことテュール様をお護りすることが、僕らの使命、僕らの存在意義だった。
ベルーリンは、複雑に絡み合う次元の狭間にあるという立地故なのか、よく異世界に侵入された。 しばしの平和が訪れたと思えば、他の異世界から亡命がある。 災厄が続く。 異界の神に狙われる……なぜか平和が長く続かないのだ。
異界の神に狙われた際に、テュール様は自身を犠牲にされ、持てる全ての聖なる力を使われてそれを鎮められた。 その際、永きに渡る休憩に入られた……お力を回復されるためだ。 僕らハルベス・ドゥツェントこと《主の守護者》の六人は深く嘆き、悲しんだ。
そんな折にベルーリンは、また新たなる異教の地から襲撃を受ける。 今まで、繰り返される戦いの日々に明け暮れて疲れ果てても、決して辛くはなかった。 護るべきお方がいらしたから。 誰ともなく僕らは、ただただ祈り続ける。 偉大なる指導者テュール様の復活を……。
戦況は悪化を辿る。 ベルーリンは大混乱に陥った。 そんな折、テュール様ご復活を祈る皆の願いが結集し、一つの奇跡を起こす。 テュール様のお力を継ぐ御子が降臨されたのだ。 それが、まだ幼き赤ん坊であらせられるフライヤ様だ。
異教の輩はそれを快く思わなかった。 僕達は幼くして皆の期待を両肩に背負われたフライヤ様を、何がなんでも護りぬくために、命懸けの日々を過ごしていた。
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