僕は……

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その日。 僕はフライヤ様を抱きかかえて逃げていた。 異教の輩が神殿に急襲してきたからだ。 仲間が応戦してくれて、僕はフライヤ様を安全なところにお連れするという、重大すぎる任務を遂行していた。 それでも追っ手に見つかってしまい、逃げ惑ううちに袋小路にはまってしまう。 壁を背にして魔法で応戦しようとしたが、まさかの背後からの攻撃を受けた。 完全に囲まれていたのだ。 護衛である僕が倒れたことで、フライヤ様に異教の輩の魔の手が迫る。 僕は最後の力を振り絞って立ち上がり、フライヤ様の盾となった。 ……その際、魔法がスパークを起こしたのか、はたまた奴らの攻撃がその系統だったのかは分からない。 僕の目の前に次元の狭間である異空間の穴が現れた。 それはブラックホールのごとく、僕を吸い込んでしまったのだ。 命を賭して護らなければならないお方を敵陣の真ん中で放ったらかしにして、僕は異世界に飛ばされてしまったのだ――― 「……ご無事で、いらしたんですね……」 目の前の少女が、自分の(あるじ)であることをようやく思い出した。 両の目から涙がとめどなく流れた。 ……ご成長された姿を見たことがある訳ではないのだけれど、分かる。 少女のオーラはかつて僕が仰いだお方のものだ。 『ようやく思い出したか。 あの後すぐにアインスとツヴァイが駆けつけてくれた。 余らを襲った奴らはすぐに撃退出来たのだが、そちだけはどうしても見つけられなかった。 まさか、このように離れた異界に落ちていようとは……』 少女……いや、フライヤ様は目を潤ませて僕を見つめられた。 『良かった、皆が喜ぶ。 フィーアが特に心配しておったぞ、やはり相棒だものな。 さ、還ろうか、我らの世界へ』 その瞬間、何故だか物凄い違和感がした。 そして、違和感を抱いてしまった僕自身にびっくりする。 僕の、僕の居るべき、還るべき場所は――― フライヤ様を死の危険に遭わせてしまったこと……僕らや民の希望であらせられるお方を護りきれなかったその絶望感は、僕の記憶をも封じてしまった。 しかし、フライヤ様は仲間のおかげでご無事だった。 フライヤ様は僕を咎めてなどいない……違和感などどこにもないはず、なのに。 僕は、ハルベス・ドゥツェントの一員だ。 僕の主はテュール様であり、フライヤ様だ、それは間違いなく事実なのに。 辺りを見渡す。 カフェの中の時間は、フライヤ様のお力で止められている。 僕の愛しい人も動きを止めたままだ。 ……僕は、僕の居場所は、……ここ、なんだ。 お義父さんお義母さん、そして彼女のいる森診療所なんだ、……そう思っては、駄目なのか?
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